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第二百四十一章 錯綜する縁(えにし) 3.出会いのお膳立て

 パーリブの店にラスコーが現れてから四日後、今度はカールシン卿がパーリブの店を訪れていた。


 イラストリア国内におけるノンヒュームの活動を調べるという任務をも課せられているカールシン卿にとってみれば、ノンヒュームが唯一「幻の革」細工を卸しているというパーリブの店は、何としても訪れたい場所の一つであった。そのために態々(わざわざ)ローバー軍務卿代理――ローバー将軍の実兄――から、パーリブに宛てた紹介状まで貰ってきているのである。ちなみに「幻の革」細工の実物は、イラストリアからモルファン宛のものを幾つか預かっている。


 そんなカールシン卿であるだけに、バンクスに到着して迎賓館の下見を済ませた翌日には、ボリスの案内でパーリブの店を訪れたのであった。



・・・・・・・・



「ほほぉ……アムルファンの商人かね」

「はぁ、本人はそう言っておりました。言葉の端々に(かす)かに現れる(なま)りからも、嘘偽りではないと存じます」

「ふぅむ……」



 パーリブは、今でこそバンクスに店を構えているが、その出身は沿岸国イスラファンであり、隣国アムルファンの(なま)りは耳に馴染(なじ)んでいる。そこからラスコーの出身地は、アムルファンに間違い無いだろうと判断していた。


 そして――この話を耳にしたカールシン卿は、そのラスコーという商人に興味を持った。


 アムルファンならずとも商人であれば、「幻の革」に興味を抱くのは無理からぬ話、それはカールシン卿にも理解できる。ただ、入手の当てが無いと断られてもなお、「幻の革」の実物を見たいと所望したのはどういう訳か。そこまで「幻の革」に(しゅう)(しん)しているとも考えられるが……



(……何かの理由があって、「幻の革」の実物を調べる必要があった……そういう解釈も考えられるな……)



 ――例えば、どこからか手に入れた「幻の革」が、本物かどうかを確認したいとか。



(……そういう視点で見ると、その商人がヤルタ教の騒ぎを知っていた事も、偶然ではないという可能性もある……)



 有力な情報部を持つモルファンは、(かつ)てヤルタ教の教主ボッカ一世の身に降りかかった災難――「幻の革」製という触れ込みのマントでアレルギーを起こした――も掴んでいた。……そのマントが贋物であるという事も、それをヤルタ教が隠そうと(やっ)()になっている事も。

 ヤルタ教の情報統制を()(くぐ)ってその情報を掴み、それをパーリブに教えたというラスコーなる商人とは何者か。どういった()(づる)でその情報を知り得たのか。


 ――ちなみに、ラスコーがこの情報を手に入れたのは偶然(・・)である。



店主(パーリブ)が何も言わないところをみると、以前にこの店を訪れて「幻の革」のマントを所望したという商人とは別人のようだが……)



 ヤルタ教相手に詐欺(さぎ)を仕掛けた一味とは別の者だとすると、今度はどうやってその情報を入手したのかが気に懸かる。



(……店主(パーリブ)の受けた印象では、「幻の革」の実物を見せてもらった対価として、その噂話を教えたように思えたそうだが……ふむ……)



 商売の命綱ともなり得る情報を、商人が重視するのは不思議ではない。だが、情報そのものを遣り取りするような事を、普通の商人が生業(なりわい)にするとは思えない。

 この商人ラスコーが普段からそういう事を行なっていて、この時もその習慣がつい漏れたのだとしたら……



(ラスコーなる商人について調べるよう、本国に連絡しておいた方が良いか……)



 念のためにパーリブからラスコーの人相風体(にんそうふうてい)と、(かつ)て「幻の革」のマントを所望したという商人の人相風体(にんそうふうてい)を訊き出して、カールシン卿はパーリブの店を辞した。


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