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第二百四十章 バンクス~再会する者たち~ 3.カールシン卿~料理と下見~

「いやぁ、大変結構な料理だった。……こう言っては何だが、町の一膳飯屋でこれほどの食事が味わえるとわね」



 ジャンスが案内した飯屋で出された食事には、大国モルファンの貴族であるカールシン卿にとっても満足のいくものだった。



「やはり、古くから交易の要衝として栄えた場所は違うという事かね」



 そんな立地条件であれば、旅人から不評を買う事は、店の存続にも関わるだろう。長年の淘汰の結果、不味いものを出す店は消えていったという事なのだろうか。それとも、交易の要衝にあるがゆえに、他国から目新しい食材や技術が絶え間なく流入し、調理文化が栄えたという事なのだろうか。

 どちらもありそうだなと、内心で考えていたカールシン卿であったが、



「そういうのも無いとは言いませんが……」

「こうまで美味くなったなぁ、ここ数年の事でしてね」

「ここ数年? ……というと?」

「お察しのとおりってやつでね。ノンヒュームの連中が砂糖を売り出したのが切っ掛けで」

「――砂糖が? そこまでの影響を?」



 驚いた中にも(いぶか)しみの色があったのに気付いたのだろう。ボリスとジャンスが交々(こもごも)に説明してくれたところでは……



「直接的な影響はそこまでじゃないんでしょうけど……」

(なん)しろ、ノンヒュームの砂糖が安くて質が良かったもんでね。他の砂糖商人も、前ほど強気に出られなくなったんでさぁ」



 〝強気な商人〟の代表格であったテオドラムも、ノンヒュームの砂糖が出廻り始めてからは暴利を貪る事はできなくなり、品質も少しだけだが向上しているのだという。



「他にも、イスラファンなどから舶来糖も入って来るようになったんですけど、こちらも思ったより高くはなくて」

「ほほぉ……?」



 モルファンの特使たるカールシン卿の中では、イスラファンの商人と言えば〝傍迷惑(はためいわく)な跳ねっ返り〟の印象が強い。ノンヒュームとイラストリアを侮るような言動が窺え、独り相撲の挙げ句に失態を(さら)すばかりであったような気がする。

 例えばつい先日の歓迎会で目にした食器の数々、あれもイラストリアが仲介を打診したのを、イスラファンの商人連中が愚かしくも蹴ったと耳にした。その〝食器〟の実態を確認済みのカールシン卿にしてみれば、イスラファンの商人連中は先の見えない愚物の集まりにしか思えない。この間は街道筋に出た怪物騒ぎで、ありもしないダンジョンの影に怯えたとか聞いたが……


 どういう風の吹き回しだ――と、内心で首を(ひね)っていたカールシン卿に、ボリスが仄聞(そくぶん)した情報を披露する。



「自分が聞いた話だと、個々の値段で多少赤字を出しても、潜在的な購買層を開拓・獲得する事で見込める利益の方が大きい――んだとか」

「成る程」



 将来への投資と考えれば、イスラファンの行動も解らなくはない。……しかし、それが意味するところは……



「……砂糖の利用がそこまで普及していると?」

「えぇまぁ。暑い盛りに冷やした飲み物――というのは、すっかり定番になりましたから」

「あとは隠し味ってやつですかね。ほんの少々加えるだけで、味がぐんと引き締まるってもんで」

「成る程……」



 察するに、自分がさっき食べた料理にも、「隠し味」とやらで砂糖が使ってあったのだろう。そんな技法が町の小料理屋に知られているほど、砂糖の利用は普及しているという事か。



「まぁ、砂糖の使い方についちゃ、ノンヒュームの連中があれこれと知恵を授けてくれてますんでね」

「ほほぉ……?」



 これは自分の知らなかった情報だ。ノンヒュームたちは単に砂糖を供給するだけではなく、その利用法まで広めているのか。商業戦略としては間違ってはいない気もするが、それは飽くまで砂糖を普及品と位置付けているからこそだろう。……彼らにはそれだけの砂糖を供給できるという自負があるというのか。


 クロウが聞いたら声を大にして否定しそうな誤解であったが、生憎(あいにく)とこの場にはクロウはいなかった。同じバンクスの町にはいるのだから、これは皮肉と言えば皮肉である。



「ま、腹もくちくなったところで、ゲーヒン館とやらへ行こうじゃありませんか」



・・・・・・・・



「あたっ!」

「成る程……景色に見とれてよそ見をしていると、頭を打つ可能性があるのですな……」

「あの枝は払っておきますか」



 ジャンスから上官(ボリス)の〝特技〟についてそれとなく助言されていた迎賓館の係員たちは、そのボリスの〝特技〟を実際に見せられて感心していた。今一つ理解しづらい助言だと思っていたが……成る程、こういう〝特技〟であるなら、明確に説明しづらいのも理解できる。それに何より、こういう任務ではこれ以上無いほどにありがたい適役なのも確かであった。


 そして――(はた)で見ているカールシン卿もまた、やはり感心する事頻(ことしき)りであった。ノーランドからシャルドまでの道中で、その実力の一端を(かい)()見てはいたのだが……



(……こうも有益な能力だとは思わなかった。……今後も協力してもらう事は……できないものかな?)


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[一言] スーパードジっ子隊長!再び!!
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