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第二百四十章 バンクス~再会する者たち~ 2.カールシン卿~迎賓館に行く前に~(その2

「……来年お越しになるという、王女殿下の事ですか?」

「……五月祭を狙ってお(いで)(あそ)ばすってんで?」

「実のところ、まだ日程は決まっていない筈だ。だが……殿下はともかく同行してくる亡者どもが、五月祭という絶好の機会を見逃すとは思えん」



 憤懣(ふんまん)()る方無い内心を如実(にょじつ)に窺わせるような卿の口調に、ボリスとジャンスも思わず顔を見合わせたが、



「……王女様方が何人でお越し遊ばすか存じませんがね、五月祭のど真ん中に大人数で繰り出そうってなぁ、そりゃ無茶ってもんですぜ」



 ジャンスの言葉に改めて周囲を見回した卿は、成る程――という思いを禁じ得なかった。まだ新年祭には一週間ほどもあるというのに、今でさえこの混雑だ。いざ新年祭の当日ともなれば、どれだけの人数が殺到する事になるのか。恐らくは五月祭も似たようなものであろう。



「この状況を見ればそれも納得できる気もするが……それほどなのかね?」



 そう確認したカールシン卿であったが、意外にも二人の答は煮え切らないものであった。



「えぇまぁ、全体としちゃそこまで酷くはねぇんでしょうが……」

「部分的に――と言いますか……」

「……成る程」



 改めて確認するまでも無い。十中八九、ノンヒュームの店だけが飛び抜けて凄まじい混雑なのだろう――と、賢明にも察するカールシン卿。だが、その想像すら現実には及ばなかったようで、



「毎年よくもまぁ死人が出ねぇもんだって、皆して感心してるくれぇなんで」

「モンスター相手の討伐でも、あれだけ酷いのは滅多に無いよね……」

「祭りの後は毎年、死屍(しし)累々(るいるい)って感じですからなぁ……」

「もう後半から鬼気(きき)迫ると言うか……鬼気(きき)()(のぼ)ってるよね……」



 そうしみじみと述懐するイラストリアの二人組を見て、モルファンの二人組はドン引きである。どこの世界に祭りの出店の形容として、魔獣討伐を持ち出す者がいるのか。……しかし、少なくともここバンクスでの実情はそういうものらしい。



「そ……それほどまでなのかね?」

「えぇまぁ。よっぽど良い回復役だか回復薬だかを揃えてるんだろうって、皆でいっつも話してるんですよ」

「回復……」



 唖然とした様子のカールシン卿であるが、ノンヒュームの店舗に回復役が充実しているのは事実である。決して大っぴらにはできないが、回復魔法持ちの怨霊(ゴースト)が密かに配置されているのだ。(もっと)も、このところその怨霊(ゴースト)までも増員に増員を重ねていると聞けば、戦況(・・)――アレが戦いでなくて何だと言うのだ――の凄まじさが想像できるだろう。



「……少なくとも、大荷物を抱えた状態で五月祭に立ち寄るのは無茶か……」



 当初は五月祭の日程に合わせてバンクスを訪問する事を考えていたカールシン卿だが、二人から実情を聴くに至って、その想定が甘かった事を痛感する。モルファンの王女の行列ともなれば、供揃えや荷物もそれなりのものとなるが……そんな大人数・大荷物で、五月祭当日のバンクスの町を訪れるのは、物理的に無理のようだ。下手をすると暴動の引き金に成りかねない。



(むし)ろ……先に公邸に腰を落ち着けて、少数精鋭でバンクスに出かける方がまだマシか?)



 そうなると、スケジュールを根底から見直す必要が出て来る。頭痛を覚えたカールシン卿であるが、頭を悩ますのは本国の連中の仕事だと割り切る事にする。ただでさえ忙しい身の上なのに、これ以上悩みのネタを抱え込んで(たま)るか。さっさと本国に押し付けよう。



「……落ち着きなすったところで、さっさと飯にしませんか?」

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