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第二百三十八章 集束する縁(えにし) 3.from イラストリア(その2)

 最適任と思われる二人が使えないとなると、さて誰にその役目を押し付けるべきか。



「事情を知らねぇやつにゃ荷が重いし、かと言って、迂闊なやつには話せんからなぁ……」



 まさかウォーレン卿が直々に出向く訳にもいかない。と言うか、役職付きの者にそんな暇は無い。いっその事、内務――公安や諜報関係も含む――を(あずか)るルボワ卿に押し付けるという案も検討されたのだが、〝王命とあらば否やは無いが、できれば配下の者の面を割るような事はしたくない〟――と、やんわり拒否されていた。ちなみにルボワ卿の配下には、(かつ)て王国勅使の随行員という身分でシュレクに潜入し、グレータースケルトンワイバーンによるコーリーの拉致と怨霊による処刑を目撃した者などもいるのだが、やはり軽々に引き合わせるのは躊躇(ためら)われるというものなのであった。



「気心が知れてるって点じゃ、ボリスのやつも適任なんだが……」

「彼らの任地はシャルドですからねぇ」



 ローバー将軍の甥に当たるボリス・カーロックは第一大隊第五中隊の所属であるが、現在はシャルドにおける警備の任に就いている。なので、シャルドからバンクスへ出向させるのはできなくも無いが、



態々(わざわざ)ここまで呼び出すってのも馬鹿らしいしな」

「バンクスでのお付きは彼らに任せるとしても、王都からバンクスまでの案内と護衛に就く者が必要になります」

「そんな都合の好いやつがいるのかねぇ」



 ――いたのである。



・・・・・・・・



「いやぁ……まさかお二方に一緒に行って戴けるとは思いませんでした」



 バンクスへの出発当日の朝、乗合馬車の発着場で恐縮しているカールシン卿の目の前には二つの人影があった――一つは痩身だが背筋のしゃんとした、もう一つはずんぐりと背丈の低い。



「なぁに、気にせんでもえぇ。どうせついでというやつじゃからな」

()(よう)。どのみち我らもバンクスには行く事になっておったのですからな。旅の道連れは多い方が良い」



 鷹揚に言葉を返したのは、〝護衛〟という単語とは無縁のように思われる二人であった。という事は、実質的にも〝護衛〟ではないのだろう。どちらかと言うと〝道案内〟、よくて〝お目付役〟といったところか。



「そう言って戴けると……では、お二方ともバンクス訪問は以前からのご予定であったと?」

如何(いか)にも。まぁ、私の場合はバンクスというよりシャルドの発掘地に用がある訳ですが……どうせ今年の発掘作業はそろそろ終わる頃ですからな。発掘に携わっているバンクスの知人から話を聴こうかと」



 ――そう言ったのは痩身で秀でた額を持ち、顎には立派な顎鬚(あごひげ)を蓄えた人物。イラストリア王国王立講学院の学院長で、その名をエイブラム・マーベリック卿という。……そう聞けば、思い当たる向きもおいでであろうか。



(わし)は例年、この時期はバンクスで知り合いと会う事にしておるのでな。まぁ、ここ数年はビールの方も楽しみになっておるが……あんたも是非飲んでみる事じゃな」



 ――そう言った人物は、ずんぐりと背丈の低いのも道理、世にドワーフと呼ばれる種族であった。彼も同じくイラストリア王国王立講学院の所属で、その名をギブソンという。こちらもその名をご存じの方がおいでであろう。


 ともに王立講学院の教授職で、片やノンヒューム――特にエルフ――の社会を研究する学者であり、片や鉱物や()(きん)を専門とするドワーフ。カールシン卿にとってみれば、これ以上無いほどにありがたい同行者である。


 ()くてバンクスへ着くまでの一週間、カールシン卿は大いに有意義な時間を過ごす事ができたのであった。

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