第二百三十七章 バンクス 2.おんなのこへのおみやげ
そんな事をジェハンと話し込んでいたら、奥の方でなにやらゴソゴソしている気配があり、やがてクロウの前に澄ました顔で現れたのは、
「クロウさん、いらっしゃい」
「や、ミンナちゃん。この冬もまた世話になるよ」
ここ「樫の木亭」の看板娘・ミンナであった。
最初に出会った時は七歳であった彼女も、今年ではや十歳。最初に出会った頃と比べて伸びた髪を、小綺麗なリボンで纏めている。
そのリボンが昨年のクロウの手土産であり、一旦奥へ引っ込んでいたのは、クロウに見せるために態々リボンを着けに行っていたのだ――という事が判るくらいには、観察眼と如才無さを持ち合わせているクロウ。自称コミュ障の対人警戒スキル由来だと言う割には、どうして見事な社交能力である。或る意味で才能の無駄遣いだとも言えようか。
そしてそのリボンはと言うと、大事に丁寧に使っていたらしい事が見て取れる。少し色は薄れているが、それが却って淡い色合いになっている。
「そのリボン、大事に使ってくれてるみたいだね」
その言葉を聞いた彼女の表情が綻ぶのを見て、クロウは徐に荷袋を開く。ややあって中から取りだしたのは――
「そんなミンナちゃんにお土産だ」
少女の表情がぱぁっと輝くのに対して、父親であるジェハンの方は慌てたように、
「おぃおぃ、いいのかいクロウさん? エッジ村のリボンっつったら、王都でも滅多にゃ手に入らないって聞いたぜ?」
事実このバンクスでも、ミンナが着けていたリボンを見た商人が、是非売ってくれとしつこく頼み込んできたのを、ルパに頼んでどうにか追い払ってもらった事がある。それ以来、滅多なところへは着けて行かない事にしているくらいなのだ。
「いえ、今年から村でも増産体制を見直しましてね。少しだけ余裕が出てきたんですよ。まだ一枚布とかは厳しいですけど、これくらいなら何とかね」
そう言ってクロウが取り出したのは、去年と同じようなリボン……かと思いきや豈図らんや、少し小ぶりながら綺麗な色に染められたスカーフであったから、少女の歓喜は更に深まった。……逆に父親の腰は益々引けていたが、そこへ更なる追い討ちをかけるのがクロウである。
「それと……こっちはお友だちの分」
――と言って取り出したのは、昨年と同じようなリボンが数本。
それを見た少女の笑顔と父親の顔の引き攣りは益々深くなっていく。些か過分ではないかという気にもなるが、クロウにはクロウの言い分があった。
子供とは言え付き合いというものがある以上、友人に対する配慮は必要である。一人だけ綺麗なアクセサリーを見せびらかすような事になって、友人たちから村八分にされるような事があっては大変ではないか。
去年はそこまでの余裕が無かったが、さすがに二年目ともなると、少しばかりの配慮は必要になるだろう……と考えたクロウが、村人たちに頼み込んで準備してもらった分である。
引き籠もりを標榜していても、こういう対人スキルはそれなりに磨いているクロウなのであった。




