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第二百三十六章 歓迎パーティの夜 3.ロークココア「ボラ」

 勿論!――と、力強く首を縦に振るカールシン卿。ノンヒュームとイラストリアが太鼓判を押す新作の試飲など、断る者がいる訳が無い。

 仮にそれがモルファンで既に知られているものだとしても、その情報の価値が減じるものではない。イラストリアの懸念の裏返しとして、祖国モルファンが自信満々で持ち込んで来て恥を掻く可能性だってある訳だ。その可能性を潰せるという事は、モルファンにとっても小さからぬ利点である。


 (ようや)く準備が整ったらしいその飲み物を、マルシング卿が手渡してくれる。カップから湯気が立ち上っているところを見ると、温かな飲み物のようだが……



「……これは?」


 

 手渡されたカップの中身を見て、カールシン卿も()(まど)いを隠せない。その色合いといい立ち上る匂いといい、今まで試した事の無いものであるのは間違い無い。つまり、味の予想が付かない。



「ボラとかいう木の実を細かに磨り(つぶ)したものだとか。砂糖とミルクを添えて飲むものだそうです。……お口に合いませんですかな?」

「いえ……甘いものもミルクも好物です。……では、失礼して……!?」



 最初に口の中に広がったのは(ほの)かな甘味と香ばしさ、次いで滑らかなミルクの風味であった。



(これは……木の実を()(つぶ)したものを混ぜたと聞いたが……ざらつきのようなものは(いっ)(さい)感じない。……一体どれだけ細かく()(つぶ)せば、このような味わい・舌触りになるのか……)



 ただただ滑らかとしか感じないその舌触りと味わいに、カールシン卿は驚愕を通り越して恐怖すら覚えていた。(もっと)も、チョコレートを試作しているエルフたちが、コンチェと呼ばれる攪拌(かくはん)作業に三日間を費やしたと聞けば、(かえ)って〝成る程〟と納得したかもしれない。



(それにこの香ばしさ。ミルクティー――紅茶ではなくハーブティのようなもの――に時々感じるような(ほの)かな渋味も無く、ただただ香ばしさと――ほんの僅かな苦味を感じる。……王女殿下のお気に召すのは間違い無いが……)



「――これは、いずれ市販される事になるのですかな?」



 これだけは是が非でも確かめておかねばならない。

 イラストリアの国民がこの「ボラ」とやらを享受し、我が国の民がそれを指を(くわ)えて眺めているだけ――などという事になったら……

 


「いや、それが生憎(あいにく)な事に、ノンヒュームたちにもこれを量産するのは難しいそうで……」

「ははぁ」

「代わりにという訳なのか、我が国に取り扱いを任せてもよいとの申し出を、内々にですが受けております」

「何と!」

「勿論、お国の方々がいらした時には、出来る限りの範囲でご希望に添いたいと思っておりますが」

「それは――本っっっ当に有り難い」



 色々な意味で最悪の事態をどうにか回避できそうな気配に、カールシン卿は安堵の溜息を()く。

 緊張から解放された心のゆとりがそうさせたのか、卿は自分が手に持っているカップにふと目を()ったのだが……



(これは……今まで気付かなんだが、このカップも中々の品ではないか。これもノンヒュームによるサルベージ品というやつか。……イスラファンの愚か者どもが下手を打って、陶磁器の名品を入手し損ねたとか聞いたが……先程のワイングラスといい、現物を目にした日には、さぞや(せっ)()扼腕(やくわん)するであろうな……)

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