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第二百三十六章 歓迎パーティの夜 1.開幕とワイングラス

 イラストリア側の思惑(おもわく)で、お世辞にも盛大とは言いかねるやっつけ仕事的な歓迎会を開かれたカールシン卿であったが、これは卿にとっても都合の好い話であった。


 何しろカールシン卿の目的は、一にも二にも王女留学に関する詳細を詰める事。親善友好を目的とした通常の使節とは違い、任務に関わらぬ()(ぞう)()(ぞう)の貴族たちと友誼を深めても、余計な(しがらみ)が増えるばかりで任務達成の助けにはならない。全力でご遠慮申し上げたいというのが、卿の偽らざる本音である。

 なのでイラストリア側からの提案は、カールシン卿にとっても渡りに船の申し出であった。ほとんど諦めかけていたが、これでバンクスの新年祭に参加できる。この国におけるノンヒュームの在り方を調べ、可能なら友誼を結んでおくというのは、カールシン卿のもう一つの使命である。



(しかも今回のバンクス訪問は、王女殿下がお泊まりになる迎賓館(げいひんかん)の下検分という大義名分まであるからな。大手を振ってバンクスに行けるというものだ)



 年の瀬も押し詰まった――言い換えると、ノンヒュームたちが店を出す新年祭も間近となったこの時期に、バンクスに宿を取るなど……本来なら無理というより無知・無謀と笑われる話であろう。しかし今回のカールシン卿には、それを可能とする切り札があった。先に触れた迎賓館(げいひんかん)の下検分である。

 まぁ、実際にはバンクスの迎賓館(げいひんかん)も、これまで数々の名士貴顕を迎えてきたのだ。持て成しのノウハウなど知り尽くしている。ゆえにこの〝下検分〟は、カールシン卿の宿を取るための方便であり、下検分などそのついでである。迎賓館(げいひんかん)側もそれくらいの事は呑み込んでいるから、何の問題も無く同意を貰えた。


 そんな感じで、心は既にバンクスに飛んで行きそうなカールシン卿であったが、無論〝歓迎会〟の方を(おろそ)かにする訳にはいかない。名目はどうあれ、これは来年の王女留学に絡むであろう実務者たちとの顔繋ぎであり、簡単な打ち合わせも兼ねているのだ。



(だが……〝(ささ)やか〟と言うには、これは随分と……)



 〝バンクスへ移動する日程を考えると、準備に充分な時間が取れない。ゆえに(ささ)やかな食事会となってしまうのは申し訳無い〟――と、イラストリア側からは事前に陳謝を受けたのだが……カールシン卿の目から見ても、決して粗末なものではなかった。



(確かに規模は小さいし、料理も〝(ぜい)()らした〟とは言えないが……)



 それでもイラストリア側の誠意――と思惑(おもわく)――は透けて見え隠れする。その第一が、食卓に並んでいる食器類である。モルファンの有力貴族家の一員たるカールシン卿の目を(もっ)てすれば、これらの食器類が月並みでない事ぐらいは容易に見当が付く。……ただし、どれだけの金額を支払えば、これらの名品を手に入れられるのかどうかは判らない。



(いや……幾ら金を積み上げたところで、これらの名品逸品を手に入れるのは至難の業ではないのか?)



 カールシン卿の目を真っ先に奪ったのは、()気無(げな)い様子で置かれているガラスのワイングラスであった――向こう側が透き通って見えるほど透明な。


 グラスの細工自体も上品で見事なものであったが、何よりその透明度が尋常ではない。

 大国モルファンと(いえど)も、これほど透明なワイングラスを用意する事はできないのではないか。いや、海の彼方(かなた)の国々においても、ここまで透明なグラスは探し出せないのではないか。……そう思わせるほどの逸品が人数分、ワインを(たた)えて客の手を待っているのである。


 たかが一使節に過ぎない自分がこれほどの持て成しを受けていいものか……と、内心で当惑するカールシン卿であったが、主賓がグラスを取らないと始まらないからと勧められて、恐る恐るそのグラスを手に取り、勧められるままにグラスを傾けて……驚愕した。

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