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第二百三十四章 「ココア」を巡るあれこれの事情 3.クロウ(その1)

 さて――それまで何の気にも留めず〝ココア〟で通していたローク豆のココア様飲料、それをなぜ今になって〝ボラ〟などという聞き慣れない名前に改めたのか。そこへ至る舞台裏の事情を少し説明しておくとしよう。


 遡る事少し前、イラストリアにココアとチョコレートを押し付ける方針が固まり、いざローク豆のパウダーを供与しようとしたところで……



(……ちょっと待てよ。……このパウダーって要するに「ローク豆のパウダー」なんだから……厳密には「ココア」とは言えないよな?)



 ――と、(はた)()にはどうでもよさそうな点が気になり始めたのである。


 クロウの世界でいう「ココア」とは要するに、〝醗酵(はっこう)焙煎(ばいせん)したカカオ豆を磨り潰したカカオマスから油脂分を抽出してパウダー化したもの〟である。

 (ひるがえ)って、クロウがイラストリアに提供しようとしているものは、〝(モンスター化した)ローク豆の果肉をパウダー状に加工したもの〟であるから、正確に言うなら「ココア」と呼ぶのは不適切。それはクロウの考えるとおりである。



『解るけど……そんな事まで気にする必要があるの? クロウ』

『どうせこの世界では「ココア」なんて知られてないみたいですし、構う事無いんじゃないですかぁ? マスター』



 ――などという、一見妥当そうに思えるお気楽意見もあったのだが、



『知られていないというのはこの国での事、精々がこの大陸での事だろう。海の向こうでどうなのかは判らんぞ?』



 こちらの世界に「カカオ豆」に相当する植物がある可能性は低くない。なら、それが現地で利用されている可能性だって低くはないだろう。問題は、それが「カカオ」に類する名前で呼ばれていた時だ。

 そして、地球産のローカスト・ビーン(イナゴマメ)或いはキャロブは、似ているとは言えココアとは少し異なる味わいを持つ。こちらでも事情が同じだとすると、風味の違いに気付く者がいてもおかしくない。別物だと気付かれるだけならともかく、名前の錯綜が露見した場合は(いささ)か面倒である。



『全く別の名前ならともかく、〝ローク豆〟のココア様飲料が〝カカオ〟に似た名前で呼ばれていたりすると、なぜそんな名前にしたのかという疑問が湧いてくるかもしれん。余計な(せん)(さく)をされたりしたら面倒だろうが』

『それはそうだけど……』

『そこまで気にする必要がございますか?』



 海の向こうの事にまで、自分たちが気を回す必要があるのか。そう言いたげな眷属たちであったが、



『歓迎パーティとやらでモルファンの特使に出す事になっていただろうが。あそこは海外貿易で栄えた国だと聞いたぞ?』

『あ……』

『それがございましたな』



 (そもそも)、「ココア様飲料」が沿岸国で知られているかどうかを探るための提供なのだから、これは自分たちが()(かつ)であった。

 ついでに言えば問題のローク豆は、元々が船の積荷として運ばれていたと(おぼ)しきものだ。沿岸国に入っていないと期待するのは甘いだろう。



『必ずしも現物が渡来している必要は無いんだ。この世界の「カカオ」なり「ココア様飲料」の事なりを知っている者がいれば、いずれ俺たちの「ロークココア」が別物だという事に気付くだろう』



 それが明らかになる事は、沿岸国に幾つかの情報を与える事になる。……黒幕(クロウ)の出自についての情報を。


 果たしてそれはどういう結果をもたらすであろうか。

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