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第二百三十四章 「ココア」を巡るあれこれの事情 1.王都イラストリア 国王執務室(その1

 舞台は例によってイラストリア王国の国王執務室、役者は例の如き四人組。そして本日の議題は、アレコレと重なった面倒事のせいで不本意ながらも等閑(なおざり)にされてきた、カールシン卿の歓迎パーティの件であった。

 時期的にも丁度好いので、王家主催の新年祭をこれに充てようと考えていたのだが……



「いえ……カールシン卿のお立場を考えると、それは良くないかもしれません」



 ――と、ウォーレン卿からの物言いが付いたのである。



「……どういうこった? ウォーレン」

「いえ、カールシン卿の本音としては、新年は王家のパーティよりも、(むし)ろノンヒュームの出店を見分したいのではないかと思いまして」

「「「あ……」」」



 モルファンの特使としての立場から言えば、イラストリアの王侯貴族との友誼を深めるのは至上命題の筈である。しかしその一方で、ノンヒュームとの伝手(つて)を築くのもまた、モルファンにとっては重要な使命である筈。()して、貴族と会見する機会はこの先にもあるだろうが……



「ノンヒュームの出店の方は、新年祭を逃すと五月祭まで望めぬ――か」

「確かに、こっちの方が千載一遇(せんざいいちぐう)だと言えますな」



 そう考えると、ここでカールシン卿を拘束して、ノンヒュームの出店に行けないようにするというのは下策だろう。ここは(むし)ろ、新年祭に参加できるように便宜を図る方が(せい)(ちゃく)ではないのか?



「てぇと……カールシン卿の歓迎会は、新年祭が終わった後にすんのか?」



 それはそれで準備が面倒だし、参加者たちにも負担を強いる事になるのではないか?

 そう懸念した三名であったが、



「いえ、ですからカールシン卿の歓迎会は、新年祭の前に開いてはどうかと」

「「「はぁ?」」」



 確かに、新年祭の後に歓迎会を開くとなると、カールシン卿の到着から一月(ひとつき)以上の時間が経つ事になる。間の抜けた話になるのは間違い無いが、だからと言って新年祭の前に歓迎会を開く? 今からだと半月ほどしか時間が無いぞ?



「いえ、飛竜(ワイバーン)を使うのならともかく、馬車で移動するとなると、最寄りのバンクスでも最低五日はかかります。あちらでの宿の手配もしなくてはなりませんから、猶予は半月より短くなります」

「……ウォーレン、そうまでして歓迎会を急ぐ理由は何だ? 半月足らずじゃ招待客を集めるのだって難しいぞ?」



 現時点で王都近辺に滞在している者は別として、遠隔の地に住まう貴族たちでは日程の調整が難しいだろう。いや、王都に住んでいる者とても、今からではスケジュールの変更に困難を(きた)すのは間違い無い。参加できなくなる者も多い筈。仮にも大国モルファン特使の歓迎パーティである。あまりしょぼくれたものになるのは――



「ですが――それで何か不都合があるでしょうか? 我々にとっても、カールシン卿にとっても」

「……ふむ?」

「どういう事かの?」



 大国モルファンにとっても、自国の体面というものは軽視できない。


 ただ、今回特使として派遣されてきたカールシン卿としてみれば、来年の王女留学に関するアレコレを詰める事、それに関わるコネクションを築く事が最優先の任務である筈。それに関わらぬ()(ぞう)()(ぞう)の貴族など、邪魔以外の何者でもないであろうし、そんな事に時間と精力を費やしたくもあるまい。それに、そんな者たちとの顔繋ぎなら、来年以降でもできなくはない。

 それに……(ささ)やかで()ぢんまりとした会食くらいなら、財務や(まかな)い方の予算や心情にも優しい筈。文句を言われる可能性は低いのではないか(希望的観測)。



(むし)ろ今は、(わずら)わしい相手を避けての実務者と会見の場を持つ事の方が、カールシン卿の意に沿うのではないか――と」

「「「ふむ」」」



 状況はイラストリア側も似たようなものだ。

 モルファンに取り入ろうとする()(ぞう)()(ぞう)(まつ)わり付くのでは、肝心の実務者との顔繋ぎも遅々として進むまい。それらを(さば)くのに草臥(くたび)れ果てて、肝心の相手への紹介が等閑(なおざり)になってしまうのではないのか。



「けどよウォーレン、そんな雑魚(ざこ)()を締め出す事にゃ異存は無ぇが……モルファン本国の方はどうなんだ? (おんな)じような()(ぞう)()(ぞう)が幅を利かせてて、軽々しく扱われるのは不遜な振る舞いだとか、モルファンとしての(メン)()がどうとか――って言い出す(やから)がいるんじゃねぇのか?」

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