第三十三章 冬支度 3.シャルドの宿場町跡にて
このゴーストタウンは、後々重要な役を割り振られる事になります。
何だかんだで冬の――表向きの――拠点をバンクスに移す事にした俺たちは、村人たちにしばしの別れを告げて、住み慣れたエッジ村を後にした。
こう言うと何だか感傷的だが、実際にはダンジョン転移で簡単に移動できるので、何か芝居臭い感じが抜けきれない。
とは言うものの、アリバイ作りのために一応ちゃんと移動はしている。夜はダンジョン転移でマンションに帰って寝てるけどな。野営なんてやってられるか。
で、バンクスの手前でシャルドの廃村に辿り着いたというわけだ。
町の感じはモローに似ていて、西部劇の舞台みたいな感じだな。乾燥……と言うほどでもないが、地面は乾いた感じで埃っぽい。モローと違って町外れを川が流れており、そこから石造りの水路が町の中に引き込まれている。川や水路を中心にして草が生えているが、水路脇の草は川の脇より草丈が低くて疎らだ。
『町跡と言うわりには家はしっかりしてるな』
何だか妙な感じだ。確かに人気はないのだが、人が立ち寄った形跡がある。
『井戸もぉ、使えそうですぅ』
『畑はともかく、木の実が生ってますよ。あれって、美味しいんです』
キーン……お前はいつもブレないな……。
手頃な家を選んで中に入ったところで、違和感の理由が判った。
『なるほど。一応旧街道沿いだから、野営の場所に使われてるのか』
家の中には泥靴の跡があり、台所では火を焚いた形跡が見つかった。確かに、家があるのに外でキャンプする必要はないな。町中に引き込まれた水路脇の草が疎らなのは、大方馬か何かが食ったんだろう。
『いっそバンクスでなく、こちらに拠点を造ってはいかがでございすか』
今回の道中には、土魔法持ちという事でスレイにも同行してもらっている。ウィンよりも乾燥に強そうだったのと、身体が小さくて隠しやすかったためだ。
『そうだな……ダンジョンを造るのはいいかもしれんが、ここで冬を越すというのは、対外的には拙かろう。食糧入手の手段がないしな。それに、時折でも人が通るんなら、ここに住んでると目立ちそうだ』
とは言えこんな優良物件を見逃す手はないと言う事で、シャルドの町跡は冬の間の隠し拠点としてダンジョン化した。通行人に不審の念を抱かれないよう、地上部には変更を加えず、地下にのみダンジョンを形成した。ヴァザーリの街中に作った監視拠点と同様に、強固な内側のダンジョンの外を、隠蔽に特化した別のダンジョンで覆ってある。ヴァザーリ同様入り口が無いが、俺たちはダンジョン転移やダンジョンゲートで自由に移動できるから何の問題もない。内部はおいおい手を加えるとして、とりあえず拠点だけを確保しておいた。
『マスター、ここって、どういうダンジョンにするんですか?』
『いや、まだ詳しい事は考えてないな。ずっと利用するかどうかも未定だし。とりあえず冬の間、近くに拠点となるダンジョンがあった方がいいだろう。拠点の数が増えると気づかれる可能性も増えるが、ここならその心配もなさそうだし、理想的な拠点じゃないか?』
『とりあえず場所を確保したという事でございますな』
『あぁ、どう育てるかは後で皆と考えよう』
周囲の状況を軽く調べ、ついでに廃屋の中も調べてみたが、取り立てて重要な物は見つからなかった。屍体とかあったら死霊術を試してみたかったんだけどな。
その日はここで一泊――見かけだけな――する事にした。明後日にはバンクスの町に着くだろう――普通に歩いた場合の話だが。ま、そういう日程で動くとしよう。
次話で越冬予定地に到着します。




