第二百三十三章 エルギン 5.ノンヒューム連絡会議事務局~チョコレートとココア~(その1)
「……どうかしたのか?」
互いに顔を見合わせて黙りこくっている三人組を見て、クロウの方も気になったようだ。
「いえ……実は」
「その日保ちの点でお訊きしたい事が出てきまして……」
はてねと首を傾げるクロウ。
砂糖菓子は基本的に日保ちの良いものばかりで、ノンヒュームたちもそれは知っている筈。そんな彼らが敢えて日保ちの事を訊くからには、彼らが能く知らない食品という事になるが……該当しそうなものは一つしか無い。
「……ひょっとして、チョコレートが完成したのか?」
「いえ。担当の者たちに言わせると、まだ完成と言うにはほど遠いそうですが……どうにか出口だけは見えてきたそうです」
「む……」
完成後の事を睨んでのホルンの問いかと合点したクロウであったが、事態はもう少し先へ進んでいた――少しばかりややこしい方向に。
「それで、チョコレートの方は五月祭に間に合うかどうかというところですが、ココアの方はそろそろ……」
「実用レベルに仕上がったのか?」
クロウの問いかけに黙って頷く三人組。その――誇らしげな中にも難しげな表情を見て取って、クロウは新たな問題に気付く。……より正確に言うならば、問題が山盛りである事に。
暫し俯いて考えを巡らせていたクロウであったが、やがて顔を上げると徐に問いを放つ。
「……新年祭はともかくとして、モルファンの歓迎パーティへの提供は、一応視野に入れていたんだったな」
その問いかけに三人組は揃って頷いた。
「ですが、これまでの事態に鑑みれば、公表と同時に注文が殺到する虞が多大にあるかと……」
急いた様子で言葉を続けるホルンであったが、クロウは片手を挙げてホルンを制する。
「まぁ待て、まずは問題点を整理してみよう」
クロウは余った紙があれば持って来いと言いつける。
クロウは少し考えてみただけで、この件では複数の問題が、それも互いに錯綜して関連している事に気が付いた。そんなややこしい問題を、頭の中だけで整理しようとしても無理がある。何かを見落としたままに論を進めて、後になってそれに気が付いて最初から遣り直し……という羽目に陥るのが目に見えている。こういう時には問題を箇条書きにして視覚化するのが一番だ。
……と、クロウは現代日本人ならではの感覚でそう考えていたが、これはこちらの世界では斬新な考え方であったようだ。
紙を単なる消耗品と捉える現代日本社会に対して、こちらの世界では紙はそこまで普及していない。高級品とまではいかないにせよ、消耗品と捉える感覚が育っていない。ゆえに、考えを纏めるためにだけ紙を使い捨てる――という発想には至らなかったようで、三人は感心する事頻りであった。
ともあれ、やがて持って来られた紙――砂糖菓子店のチラシ――の裏に、クロウたちは問題点を箇条書きにしていった。




