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第二百三十三章 エルギン 2.ノンヒューム連絡会議事務局~現状把握~

「何と……こっちにまで(とばっち)りが来ていたのか」

「えぇまぁ。エルギンの住人としては知らん顔もできませんし」



 来年の王女訪問を念頭に、町の化粧直しが進められているだろうとの予測はクロウにも立てられたのだが、実態はそれから更に一捻りされていたらしい。要は人手が思ったように集まらなかったのである。



「何しろ、シャルドがあんな状況なものですから」

「あぁ、あっちに人手が取られた訳か……」



 何しろ現在のシャルドには、古代遺跡発掘と町のインフラ整備という二大案件が重なっている。どちらも来年の王女訪問に関わっているだけに、ここで手を抜く訳にはいかない。いや(むし)ろ、王女一行が発掘現場を視察する可能性があるというのなら、そっちの方も見苦しくない程度には体裁(ていさい)を整えておかねばならない訳で……



「ほとんど国中の人手が掻き集められたみてぇでしてね」

「ここエルギンにまで労力を廻すゆとりは無いようなのです」

「で、困った町の衆が――」

「ノンヒュームたちに頼み込んだという訳か……」



 来年の王女訪問を見据えての美化整備と、シャルドを起点とする人員収奪。相反する二大案件に直面して困り果てたエルギン当局が白羽の矢を立てたのが、前々からエルギンの町とは友好的な関係にあり、今ではエルギンに事務所を構えているノンヒュームたちであった。



「まぁ、仕事ったって大規模な土木工事やなんかじゃなくて、ちょっとした大工仕事が中心ですからね。俺らでもどうにかなったって訳で」



 宿屋や食堂、商店などが、立て付けの悪い戸口やガタついたテーブル、(みず)()けの悪い道路などの補修や整備を頼み込んできたらしい。隣人の頼みを無下(むげ)に断る事もできぬとあって、エルギン在住のノンヒュームだけでなく、近在のノンヒュームたちまで駆り出しての騒ぎになっているのだという。

 まぁ(もっと)も、道路工事やら何やらの大仕事の方は、どうにか駆り集めた人間(ヒューマン)の労働者が請け負っているようだが。



「ま、何にせよ人手が集まって来たのは事実ですから、消費する食糧なども相応に増えている訳です」

「あぁ……それに関連してやって来た商人たちも、この(にぎ)わいを成している訳か」



 (ようや)く得心がいったという顔のクロウであったが、現実は更にその斜め上を行っていた。



「ところが――」

「問題はそこで収まりませんで」

「……?」

「俺らがエルギンに集まってるって聞きこんだ商人たちがですね……」

「あ……ひょっとして、ビールやら丸玉やら何やらを狙って……?」

「「「ご名答」」」



 何しろ、今やエルギンの町と言えばノンヒューム、ノンヒュームと言えばビールであり古酒であり砂糖であり丸玉である。そんなノンヒュームたちが、ところもあろうに連絡会議事務局のお膝元であるエルギンの町に集結しているというのだから、これは()(ざと)い商人ならずとも気になるのが道理というものだ。

 無理矢理に強請(ねだ)るような危険な愚行は冒せないが、あわよくばノンヒュームとの伝手(つて)を得る事ぐらいは望みたい。そんな商人たちが、これまた大挙してエルギンの町に押し寄せたのだから、その結果は推して知るべしである。

 幸いにしてリーロットの町でテオドラム兵士がやらかした一件は広く知れ(わた)っていると見えて、今のところは紳士的に振る舞う者ばかりであったため、懸念されたようなトラブルは起きていないのが救いである。


 ちなみに、つい先日までクロウのいたエッジ村に影響が及ばなかったのは、一つにはホルベック卿が抑えてくれたのと、何より今のエッジ村にちょっかいを出すと、彼らが尽力している草木染めの普及が遅れる事になりかねない事を、商人たちも理解しているからであった。どう考えてもそっちの方がデメリットが大きい――と言うか、ご婦人連に袋叩きにされかねない――とあって、日頃貪欲(どんよく)な商人たちも、敢えて火中の栗を拾うような挙には出なかったのである。


 さて、そんなこんなで関係各位の思惑(おもわく)渦巻くエルギンであるが、慎ましやかにとは言え人間(ヒューマン)たちから(こと)ある(ごと)に訊ねられれば、ノンヒュームたちとて関心を掻き立てられずにはおられない。すなわち――


・次の新年祭にも、エルギンの町で砂糖菓子などの販売はあるのか? また、今年はビールは手に入るのか?


・グラノーラ・バーの販売はどうなっているのか?


・来年モルファンの王女がエルギンを訪れるというが、その時にもノンヒュームたちは出店するのか?


 こういった質問が連絡会議事務局に、引っ切り無しに舞い込む次第と相成ったのである。


 (こと)に各方面から引き合いが多かったのが、少し意外な事にグラノーラ・バーであった。



「嗜好品というのも()る事ながら、携帯食や保存食としての要望が多かったらしくて」

「こっちは定期的に、できれば恒常的に販売してもらえないかと、冒険者ギルドから打診される有様でして」

「それはまた……何と言うか……」

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