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第二百三十二章 巡察隊顛末 12.ヴァザーリ~精霊たちの訊き込み~

『成る程……色々と面白そうなネタを訊き込んできたな』



 得意げなシャノアから報告を受けたクロウは、内心で舌を巻いていた。精霊たちの協力はありがたいと思っているし、これまでにも重要な情報を訊き込んできてくれていた。しかし、よもや衰退著しいというヴァザーリでこれ程の情報を拾って来るとは……



『どうクロウ? あたしたちも捨てたもんじゃないでしょ?』

『確かにな』



 シャノアが――と言うより、正確にはヴァザーリ在住の精霊たちが――拾ってきた情報は、ざっと並べて以下のとおりである。



・テオドラムがあちこちに物見を出しているらしい。今のところ噂になっているのは、シェイカー討伐戦とアバンの廃村、イスラファンの南街道であるが、それだけでなく自国内のマルクトとガベル、それにヴィンシュタットからレンヴィルを経由してニルに至る中央街道にも、偵察と保安のための部隊を派遣したようだ。


・テオドラムは秋の収穫を終えても小麦の取引量を増やそうとしないので、商人たちが不思議がっている。一部の商人は危機感を覚えて、他国との取引に手を伸ばしているらしい。モルヴァニアとの取引を考える商人も多いようだ。


・代替産業が欲しいヴァザーリにテオドラムが接近して、手を組んでエールの改良に乗り出している。ホップの代わりにハーブの風味を強く利かせた、いわゆるグルートビールと呼ばれるタイプらしい。まだ試作の段階らしく、関係者たちは秘密にしている。


・テオドラムでは井戸を自由に掘る事ができないらしい。テオドラムの商人が愚痴っていたのを聞いた。


・イスラファンに至る街道の往き来が回復した。冒険者ギルドや国が安全宣言を出したためらしい。クロウが仕込んだ()(もん)(じょ)のネタは、まだあまり広まっていない。検証のしようが無いため、耳にした者も半信半疑というのが実情のようだ。


・イスラファンの商人たちが、モルファン王女のイラストリア留学話に関心を示している。両国の間の取引量が増えるのなら自分たちの利益にも影響するので、これは無理からぬ事であろう。



 ヴァザーリの立地条件から、テオドラムとイスラファンに関する情報が多いようだ。奴隷交易は衰退しても、交通の要衝としての価値に変わりは無いため、商人の往き来はそこまで落ちていないのだろう。雑多な情報ばかりとは言え、これだけの情報が得られるとなると、これまでヴァザーリを等閑(なおざり)にしてきたのは間違いだったかもしれぬ。イスラファン南街道の安全宣言についての情報など、クロウたちにとっても初耳であったし。


 ――これだけ有用な情報が得られるのなら、放って置く手は無い。


 考えてみればクロウたちは、テオドラムとの対決姿勢を(ひょう)(ぼう)していながら、そのテオドラムの情勢を探る手段に乏しかった。テオドラムと直接往き来できるルートを抱えるヴァザーリは、その不備を補ってくれるかもしれないではないか。



(そうなると……シャノアの言うとおり、ここに精霊門を開くというのは悪い手ではないな。しかし問題は……)



『シャノア、二つほど訊きたい。まず、精霊門を開くとして、その候補地に心当たりはあるのか? 次に、(そもそも)これらのネタをどこで仕入れた? 精霊たちは町に入らないんじゃないのか?』



 (いず)れも重要な情報ばかりではあるが、精霊たちが危険を冒して町に入って訊き込んだというのなら、これはクロウとしては捨て置けない。諜報拠点としての価値は変わらないだろうが、情報収集の方法は考えなくてはならないだろう。


 しかし、シャノアの答はクロウの懸念を(ぬぐ)い去るものであった。



『野営地だと?』

『うん、そうなんだって』

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― 新着の感想 ―
[良い点] シャノア、いい仕事しましたね。 [一言] 「緑の標」による主要野営地の緑化が 促進される予定。
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