第三十三章 冬支度 2.エッジ村にて
越冬予定地が決まったようです。
斯く言う次第で、俺は村に情報収集にやって来た。冬の間山小屋を閉めて移動する挨拶と、来年も山小屋を使わせてくれるかどうかの確認も兼ねている。最初は長の訪問だな。
「ほぅほぅ、やっぱ、冬の間は余所へ移りんさるか」
「ええ、この辺りの雪がどのくらい積もるか知りませんが、やはり冬になると薬草調べも難しいでしょうし。それができないならいっそ別の所へ行くのも手かな、と思いまして。この村は過ごしやすくて気に入ってるんですが」
「んだなぁ。山奥ほどではござりやせんが、結構積もるで。あの山小屋じゃぁ辛かろうち思っとっただよ。ふんでぇ、どこさ行かれっかね?」
「それなんですが、どこかいい所をご存じないですか? 自分はこの国に不案内なもので」
「う~ん、こらぁ、他の者にも聞いてみっべ」
そう言うが早いか村長は席を立ち、表で話し込んでいた数名の村人を引っ張ってきた。腰の軽い爺さまだな。
新たに引っ張ってこられた村人たちを交えての鳩首協議の結果、幾つかの候補地が示された。
「まんず、近くの町っちゅう事で、エルギンの町だぁな」
「エルギンですか。一度行った事はありますが……周囲が畑ばかりで薬草の調べようがなかったんですけど」
「あぁ、薬草調べもなさっだかね」
「まぁ、冬中何もせずに引き籠もるのも……。あと、家賃とか宿代が高い様な気がしたんですが?」
「あぁ、宿代はちっとんべぇ高いだかな」
「んだば、バレンちゅう手もあるだが……あっこはのう?」
「んだな。何でもエルフに喧嘩売って返り討ちに遭ったっちゅうて、そっからは寂れっぱなしだでな」
「何か人間以外への風当たりが強いとか? ペットを連れていたら絡まれそうで怖いですね」
「んだぁ。その事もあっだなぁ」
「んだばあとは……ちっとんべぇ遠いだがバンクスがえぇだな」
「んだな。お薦めっちゅうやつだ」
「バンクス、ですか?」
「んだんだ、兄さんモローは知ってっべ? あっこから南東に行ったとこでな」
はて、モローの南東?
「そこって遺跡があるとかいう場所ですか?」
「んだんだ、遺跡のあるんはシャルドって町だが、あっこは今誰も住んでねぇで」
ほほう、無人の町だと?
「そんの、シャルドのもっと先だぁよ」
「東に隣国への街道、西には王都への街道、南には鉱山のある山、と三拍子揃ってんで、古くから交易で栄えた町だぁ」
「薬草は生えてっかどうか知らねぇだが、市場で色んな薬草、売ってっべ。調べるだけならそれでもええべ?」
ほほう? よさそうな所じゃないか。
「冬は過ごしやすいですか?」
「ここよりゃずっと南だでな。暖けぇべ」
「商人がしょっちゅう出入りすんで、宿も多いし、安いべよ」
村人たちに礼を言って、ついでに売る機会の無かった天然石の丸玉を渡したら喜んでもらえた。折角だから全員分を村長に渡しておく。
「女子どもが喜ぶじゃろうて。なかなかこんなんは手に入らんでのぅ。だども、本当に貰ってよかったべ?」
「以前に手に入れた物の残りですからお気になさらず。色々とお世話になっているお礼です」
ここで育てた薬草の方がずっといい値がついたしね。
来年の山小屋使用の許可を貰って、村長の家を後にした。
明日は旅立ちです。




