第二百三十二章 巡察隊顛末 11.ヴァザーリ~活躍する者たち~
シャノアが飛び出して行った時の事を思い返すと、カイトたちにも一抹の不安が無い訳ではない。というのも、久々に旧知の精霊たちと再会したシャノアが、彼らとの話が弾んだ後で言い出したのが、
『やっぱりここにも精霊門が欲しいわよね。マリアもそう思うでしょ?』
『え?』
どう答えるべきかと目を白黒させていたマリアを掩護するかのように、横から話を引き取ったのはバートである。
『いや……精霊門つーか……ゲートがあるってんなら、そりゃ便利だけどよ……』
『そうよね!? そう思うわよね!? やっぱりこれはクロウに言わなくちゃ!』
『いやおぃ嬢ちゃん、ちょっと待て。俺たちゃ別に――』
『そうと決まれば、グズグズしてられないわね!』
――と、バートの釈明を聞きもせず、仲間の精霊たちを引き連れて、そのまま飛び出して行ったのである。
後には呆然と困惑――妙な言い回しのような気もするが、他に適切な言い方が無い――した一同が残された。
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抑シャノアがヴァザーリまで同行して来たのには理由があった。一言で云えば、カイトたちのアシストである。
以前にも触れたが、カイトたちは嘗てエルダーアンデッドに成り立ての頃、ヴァザーリの町を襲撃した事があった。エルダーアンデッドとなってからは容貌が色白に変わっていたのだが、その時は生前の面差しに似せるように態々変装までしていたので、今の素顔を見てカイトたちだと気付かれる可能性は低い。しかしそれでも、手を拱くのをよしとしないクロウが、変装用の魔道具まで拵えて彼らに渡した次第については既に述べた。が――これとて不備が無い訳ではない。
クロウがダンジョンマジックを付与して創り上げた魔道具は、基本的に見かけを欺くものである。言い換えると、声や喋り方、身のこなしなどは、この魔道具では欺きようが無いのである。
一応バートは斥候職の技能として、声を作り喋り方を変える事も或る程度はできる。また、意外にもカイトは物凄い訛りで話す事ができた――彼にとっては黒歴史らしいが。しかし、残りの三人はそういう誤魔化しの手管を持たないため、ヴァザーリの住人と話すのは控えた方が良い。言い換えると、彼らに訊き込みをさせるのは難しい。ついでに言うと、カイトも訛りを丸出しにすると会話が成り立たなくなるため、こちらも訊き込みには参加できない。
ヴァザーリでの情報収集は諦めるかと考えていたクロウであったが、そこで名告りを上げたのがシャノアであった。
闇精霊がどうやって訊き込みをするつもりなんだと、最初は相手にしなかったクロウであったが、ヴァザーリ近郊に住まう精霊たちの協力を得るのだと言われて考え込む事になった。
精霊たちは何かとクロウに協力的で、これまでにも数多の情報を収集してくれている。同じようにして、ヴァザーリの動向に関する情報も探り出してくれるのではないか?
そう考え直したクロウは、絶対に危険な真似はしない事・させない事を厳命した上で、シャノアの同行を認めたのであった。
従って、シャノアが仲間の精霊たちとヴァザーリでの情報収集に勤しむ事自体は既定の方針であったのだが、
「シャノアの嬢ちゃん、何か妙に勢い込んでたからなぁ……」
「張り切り過ぎて無茶をしなければいいんですけど……」
シャノアの事は気に懸かるが、然りとて大っぴらに出歩くのも気が引ける――という感じでやきもきと待っていた一同の許に、
『ただいま!』
――と、シャノアが意気揚々と戻って来たのは、すっかり日も暮れた後の事であった。
心配して待っていたマリアとしては、〝子供がこんな遅くまで出歩くもんじゃありません〟と――文句の一つも言いたくなるが、闇精霊のシャノアにとっては、寧ろ夜こそが活動の時間帯である。それが解っているだけに、マリアとしても文句は付けにくい。が、煮え切らない思いを抱え込んでいるのも事実である。
憮然とした五人をあやすかのようにシャノアが上機嫌で報告したのは、
「……成る程。嬢ちゃんが意気込んで帰って来たのも解るな」
「ですね。見過ごせない情報ばかりです」




