第二百三十二章 巡察隊顛末 7.リーロット(その2)
リーロットの町を整備するに当たっては、平素――ぶっちゃけて言えば新年祭と五月祭以外の時期――にも旅人たちを呼び込み、その足を停めさせるのが重要であると考えられた。店舗を増やして繁盛させるという定番の案が出された他に、居住環境の改善も急務であるとの意見も出された。道路や水場の整備は当然として、それ以外に何か手は無いかと頭を悩ませていた振興局の目に留まったのが、丁度活動を進めていた「緑の標」修道会なのであった。
テオドラム国境線沿いの緑化が或る程度済んだ段階で、修道会は活動の場を他へ拡げる事にした。会の設立目的として、緑化による魔力循環の回復の他に諜報活動が挙げられているのだから、もう少し人気のある場所でも活動したいというのは理に適っていた。だって国境線には人がいないし。森を荒らすテオドラムの連中は、国境線に近寄れないようにしてるし。
という訳で、新たな緑化候補地を探してフルック村から北上していたノックスたちは、あろう事か期せずして「魔像の岩室」と呼ばれるダンジョンに接近する事になる。このダンジョンがイラストリア王国と相互防衛の密約を交わしていたために話がややこしくなったが……ともあれ、幾ら修道会の設立目的(公称)が緑化にあると言っても、さすがにダンジョン――しかも他人の――を勝手に緑化するというのはアレだろうという結論になる。
フルック村の傍らの道を北上するのが不可となると、残る選択肢は南下しか無い。そうなると行き先はリーロットである。
魔力循環という視点から見れば、リーロットのように人の動きの活溌な場所ではそれなりに魔素が発生・滞留するため、敢えて緑化を急ぐ必要は無い。無いのだが……しかし他に不自然でない――ココ重要――緑化の候補地が思い当たらないのも事実である。
それに、リーロットの周辺には纏まった木立が少ないのも事実であるし、更に遠大な目で眺めれば、南街道沿いの緑化を進める事は、現在孤立気味である国境線沿いの森に魔力の回廊を繋げる第一歩ともなるであろう。
こういった判断から、ノックス率いる「緑の標」修道会は、フルック村からリーロットまでの道に街路樹を植える事にした。無論、フルック村の村人たちには事前に相談し、特段の問題は無いだろうとの同意を貰っている。
成長の早い陽樹を街路樹として植えた後、クロウの手になる木魔法の魔石と肥料――どちらも効果はごくごく控えめにしてある――を用いて成長を促進する。馬車を停められそうなスペースのある場所には、少し纏まった木立も作っておく。
緑化樹種として落葉樹を選んだのは、陽射しの強い夏には木蔭を提供し、冬には葉を落として温かな陽射しを遮らないようにとの配慮からで、この辺りはクロウの入れ知恵であった。
ともあれ、そんな感じでリーロットまでの道筋の緑化に励んでいた修道会の活動が、リーロット開発振興局の目に留まった訳である。
「まぁ、リーロットの周りは木を伐り払ってて殺風景だからな。町の中だけでも木を植えようってなぁ、解らないでもないよな」
「家の建て込んでる中心部はともかく、新しく整備開発中の周縁部には、敷地にも余裕がありますしね」
「長旅で疲れた心身を癒せる町……っていうなぁ、確かに売りにはなるだろうしな」
「馬車駐め場にも木を植える予定みたいですね。所々に空いた場所がありますし」
「今は冬だからその必要は無いが、夏の陽射しを和らげてくれるというなら、木蔭のあるのは歓迎できるしな」
「冬の今時分に敢えて木を植えるってのも、少しでもノンヒュームの好感を得ようってんだろ?」
「それもあるが……広場の所々に低木や草花を植えているのは、混雑しないように動線を確保する意味もあるらしい」
ハンクの説明を聞いて、成る程――と納得する一同。幸か不幸か自分たちは、ノンヒュームたちが出店する新年祭や五月祭に参加した事は無いが、ビールや砂糖菓子の味は能く知っているし、出店の混雑の凄まじさについてもあちこちで散々耳にしている。それらの情報に鑑みるなら、少しでも混雑緩和に寄与するとなれば、藁をも掴みたくなる心情は理解できる。
「あれだろ? 今回は事前にエルギンの連中まで呼んで、店の区割りを見直してるんだろ?」
「そうらしいな。ノンヒュームたちが人員を派遣したそうだ」




