第二百三十二章 巡察隊顛末 5.ポイントE(その2)
『ふーん……亡霊はいるみたいだけど気配が薄いし、怨霊化はしていないみたいね。……と言うか、自我を保ってるかどうかも怪しいわね。年代物ばかりみたいだし』
『年代物……』
『年季が入ってるって事か? エメンのおっさんより亡霊歴が長い?』
『そんな感じね。パッと見の印象だけど』
『シャノアちゃん、どうしてそうなのか判るかしら?』
『う~ん……多分だけど、マリアが言ってたのが当たりじゃないの? 魔力が集まり易いから亡霊が消滅しなくて、だけど自我を保つほどには魔力が濃くないから、怨霊化もしていないって事だと思う』
――シャノアの見解を聞いた一同は、そこに看過すべからざる問題が潜んでいる事に気が付いた。
魔力が散逸して濃集しないから怨霊化しないという事は……逆に言えば、魔力の散逸を止めて濃集を進めた場合、怨霊の活動が活溌化するという事ではないのか?
更に――その魔力散逸を止めるための手段が、「緑の標」修道会による緑化であった場合……
『……修道会が余計な事をしたせいで、怨霊が湧き出た事になっちまう訳か……』
『どこかで聞いたような話だわね……』
〝どこか〟も何も、ベジン村でヤルタ教がやらかした――という事になっている――不始末と、全く同じ伝ではないか。違うのは犯人の名前だけだ。
『これは……不用意に緑化に着手するのは逆効果か?』
『ノックスのおっさんが足止めされたのは、天の配剤ってやつかもな』
先程も少し触れたが、本来ならここ「ポイントE」の下検分は、この地で緑化作業の指揮を執るノックス自らが行なう予定であった。ところが、思いがけぬ事情でノックスたちが足止めを被る事になったため、緑化の計画が一時凍結している訳なのだが……その理由について説明するのはもう少し先の事にして、
『けどよ嬢ちゃん、ここの魔力はあんまり濃くねぇのに、亡霊が引き寄せられてるってなぁ、どういう訳だ?』
どうにも腑に落ちかねるという顔付きで質問したバートであったが、シャノアの回答に驚かされる事になる。
『あ、集まって来たって訳じゃなさそうよ? ここって墓場みたいだし』
『『『『『『墓場!?』』』』』』
思いもよらぬ単語が出て来たため、一同の声も裏返らざるを得ない。……約一名、専門的な興味から声を上げた者もいたようだが。
『ここへ来る前に地元の精霊から聞いたんだけどね……』
シャノアが地元精霊から訊き込んだ話によると、ここは古くから行き倒れの埋葬地として使われてきたらしい。エメンをここに埋葬したヤルタ教の暗部もそれを承知しており、ここなら屍体の一つや二つ増えても気にされないだろうと、紛れ込ませた訳らしい。
『けど、リーロットの町が整備されてからは行き倒れも減ってきてて、近頃はここが使われる事は少なくなってるそうだけど』
とは言え、地元の者たちはそんな経緯を知っており、あまり近寄らないようにしているとの事であった。
『けどよ、前の村じゃそんな話は出なかったぜ?』
『特に実害が無いのなら、注意する必要も無いという事じゃないか? 村人にしたところで、好んで悪評を立てる気にはなれんだろう』
ハンクの解釈に、それもそうかと納得する一同。
『そうすると……修道会として鎮魂の儀式を行なう名分はある訳か』
『この場所の曰く因縁に鑑みると、そうなるわね』
『問題は……そうした場合に、活溌化した怨霊たちが悪さをしないかって事ですよね』
『そこはもう、やらかさないよう統制するしか無ぇだろう』
『いやちょっと待て。……修道会の目的って、魔力の回復とか精霊を呼び込むとか、そういうんじゃなかったか? だったら、何かあった場合も精霊たちの仕業だって事にすりゃ……』
『精霊たちはそんな事しないわよ!』
『あ……いや、そんなつもりじゃ……すまん……』
『全く……カイトの考え無しにも困ったもんだぜ。シャノアの嬢ちゃんも勘弁してやってくんな』
『仕方ないわねぇ』
『おぃこらバート、自分一人だけ良い子になりやがって――』
『あぁ? 俺がどうとかじゃなくて、お前が悪い子だって事だろうが』
『二人とも! いい加減にしなさい!』
『『うへぇ……』』
……ともあれ、「ポイントE」の緑化については話が纏まったようである。
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