第二百三十二章 巡察隊顛末 3.シャルド~現況~
「しかし……噂には聞いてたけどよ、ここも大概な事になってんだな」
「ボリスの旦那が言ってたけどよ、もう第五中隊でどうこうできる状況じゃねぇってんで、国の代官所を置く話も出てるそうだぜ」
「代官所?」
訳知り顔のバートの台詞に、居並ぶ一同は不審顔である。国が代官を置くという事は、地方領主による管理を認めないという事だ。王国はシャルドをそこまで重視していたのか。
「いや、それもあんだけどよ、管理役の成り手が無かったらしいぜ」
「は?」
「こんなに賑わってるのにですか?」
通常なら賑わっている場所というのは色々と収益が見込める場所であり、鼻の利く貴族たちがそこを見逃すとも思えない。怪訝そうに眉を顰める一同であったが、元・主計士官のハンスだけは、何か思い当たる節があるようだ。
「面倒なんだとよ。利権は大きそうだが、業務と責任はそれ以上――って見てるらしいわ」
「「「「――あぁ、成る程」」」」
何しろ現在のシャルドの様子はと言えば。倦まず撓まず引きも切らずに詣でる者たちのせいで、管理がややこしくなっている。ここや近隣領の住民だけならいざ知らず、他国からも大勢が見学にやって来ているのだ。しかも、参観客の大半がノンヒュームである。そのため、ここの管理に伴う義務だの権利だの責任などは、非常に面倒臭い事になっている。誰もが首を突っ込むのを逡巡するくらいに。
〝もういっその事、ノンヒュームの連絡会議に管理を任せてみては〟――という投げ遣りな意見も出たものの、
〝イラストリア王国の史跡をノンヒュームが管理していいのか?〟――という、尤も至極な反論に遭ってポシャる事になった。況して今は、シャルドの封印遺跡を兵站拠点――表向きは防災拠点――に使おうとの動きが水面下で進んでいるのだ。部外者であるノンヒュームにその管理権を渡すなど、とても容認できるものではない。
それどころか国王府の上層部では、来年のモルファン王女の見学を口実に、〝警備のために人員を増やす必要があるが、居留地や物資の置き場が無い〟――という名目で、済し崩しに部隊を遺跡内に駐留させようと目論んでいるのだ。それに関してノンヒュームたちの意見や反応を窺うべく、密かに連絡会議と折衝を重ねている。連絡会議の方ではそのために専従の部署を作ったほどである。
――管理権の譲渡など、議論の俎上にも上せられるものではない。
なお、〝シャルドの遺跡を災害時の救援拠点として整備する〟という王国の建前を聞いたクロウは、連絡会議に一つの入れ知恵をしていた。すなわち――
〝シャルドとその近隣の防災拠点として使うと言うなら、食糧も医薬品も衣料品も便所も……全てが足りない。遺跡ぐらいでは小さ過ぎて不適当である。ここは是非とも、より大規模な倉庫群の整備をお願いしたい〟――と、思いっきり煽らせたのである。
クロウこと烏丸良志は日本人。災害大国に生まれ育ったのは伊達ではない。細かで具体的な数字を挙げて、王国側の甘い見通しを論破してのけた。
クロウの意を受けた連絡会議から、計画が不充分だと指摘された王国は頭を抱えているが、そんなのはクロウの知った事ではない。
ちなみに、この件には第一大隊も〝我関セズ焉〟を決め込んでいる。
「この後シャルドの統治とか管理とかがどう転ぶのか」
「俺たちの方でも、それとなく探っておく必要はありそうだな」
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