第二百三十一章 折り鶴のメッセージ 14.王都イラストリア 王立講学院(その1)
「軽銀じゃと?」
「あぁ。詳しい事は言えんが、王家は軽銀に興味を持っている。いずれ近いうちに、学院に対して何らかの問いかけがある筈だ」
王立講学院、通称・学院の一室で秘密めいた小声の会話――註.ドワーフに関しては彼ら基準――を交わしているのは、学院で錬金術科の科長を務めるエルフと、同じく冶金科の科長職にあるドワーフであった。ちなみにエルフの方は、王家に呼ばれて折り鶴を【鑑定】した当人である。
「軽銀とはまた……儂らでも扱う事の無い金属じゃぞ?」
「だが……それを素材として扱う御仁もいるようだぞ?」
半ば当惑、半ば諦めといった表情で語るエルフの錬金術師の様子を見れば、話の要諦がどこにあるのかくらいは、ドワーフの鍛冶師にも見当が付く。
「……あの……御仁絡み……かの?」
一段と声を潜めて放す様子を見れば、この話題が彼らにとっても微妙でアンタッチャブルなものであると察せられよう。
「王家からは何の説明も無かったが、まず間違い無い。あの御仁を除いてあのような……すまん、上手く説明できんのだが……つまり、軽銀を素材として扱う事のできる者がいるとは思えん」
「成る程……」
「加えて、目敏い仲間が報せてくれた件がある。第一大隊のダールとクルシャンクの二人が、人目を避けるようにして王都に帰還した。……自分が呼び出されたのはその直後だ」
「ダールとクルシャンク……密偵として動いておるという二人じゃな?」
ダールとクルシャンクについては、クロウもカイトたちに人相書きを見せて注意を喚起したりしているが、ノンヒュームたちも別の理由からこの二人には注意を払っていた。マール少年の消息を探りにエルギンを訪れたのがこの二人なのだ。しかもその身を商人などに窶して。ノンヒュームたちが胡散臭い目で見るのも当然であろう。
況して――そんな二人が密かに帰国し、しかもその直後に王家から呼び出しがあって、軽銀製の工芸品を見せられたとあっては……彼らの関与を疑わない訳にはいかないではないか。
「噂では沿岸国の方を廻っていたというが……それで思い出したが、海の向こうの同胞が軽銀を扱っているという可能性は?」
問題の工芸品が舶来品である可能性に気付いたエルフが問いを発するが、
「……いや……その可能性は低いじゃろう。沿岸国にも儂らの知り合いはおる。舶来品であろうと何だろうと、軽銀などという珍しいものが使われておれば、話題にならん筈が無い。……仮令それが武器防具であろうと、工芸品の類であろうと――な」
「ふむ……そうなると、これは益々彼の御仁が絡んでいる気配が濃厚だな」
「王家が何ぞ探りを入れてくるか?」
「あの御仁について何か訊いてくるような真似はすまいが……軽銀については、まず間違い無く問いがあるぞ。標本か何かを持っているのであれば、或いは現物の入手の当てがあるのなら、早めに用意しておいた方が良いだろうな」
善意からの忠告といった体のエルフであったが、ドワーフの方は苦い顔をするばかりである。
「簡単に言うてくれるわ。軽銀がそう容易く手に入らぬ事ぐらい、お主とて承知の上じゃろうが」
「ぼくたちのマヨヒガ」、本日21時頃に更新の予定です。宜しければこちらもご笑覧下さい。




