第二百三十一章 折り鶴のメッセージ 13.王都イラストリア 国王執務室~折り紙工芸~(その3)
「先だっても申し上げましたが、モルファンの希望を叶えるためには、どうせノンヒュームの講師陣を充実させる必要があるんです。その人選を連絡会議に依頼すれば、まず間違いなく紐付きの人材が派遣されるでしょうから、こちらとしても好都合ではないかと」
「そこまで見越しての事かよ……」
感心するというより呆れるばかりの一同であるが、有効な策であるのは間違い無い。なのでウォーレン卿の献策を容れて、早々にも連絡会議に話を通す事が決まる。
「――で、肝心の『鳥』だがよ、どうやってそのこさえ方を知ろうってんだ?」
「それはもう、分解するしか無いでしょう」
「「「分解!?」」」
何て事を言い出すんだと即行で却下しそうな勢いであったが、ウォーレン卿はそれを窘めるかのように説明を続ける。
「鑑定文を読んだ限りでは、あの『鳥』は特に糊付けなどはされていないようですから、解いた後に再構成する事も可能な筈です」
「そりゃ、そうかもしんねぇけどよ……」
「それに、何も無計画にバラしてみるというんじゃありません。事前に全方位からのスケッチを残した後で、一手ごとに新たなスケッチを残しておきます」
「あ……成る程」
「それなら元に戻す事もできそうじゃな」
「あとは、解いた手順を逆に辿れば、新たな『鳥』を作る事も可能な筈――か」
どうやらイラストリア王国としての方針は固まったようだ。
「……あと、気にかけるべきは招待客の顔触れでしょうか。モルヴァニアとマーカスは呼んでおいた方が宜しいかと」
「あの伝言の件があるしのぉ……」
マーカスとモルヴァニアと言えば、ダールとクルシャンクが帰国するに当たって便宜を図ってくれた国である。勿論、彼らは自分たちなりの思惑から動いたのであって、それを暗示するかのように、ダールとクルシャンクに「伝言」を託していた。
文書と違って後には残らず、しかも確実にイラストリア上層部に伝わるであろう事を見越して、
「〝今後もイラストリア王国とは良き隣人でありたいと望む〟……どちらも示し合わせたように、同じ文言ときてやがる」
「まぁ、実際に示し合わせたのであろうな」
「あの二国が示し合わせて我が国に声をかけた以上、その狙いは――」
「テオドラム……か」
この伝言を受け取った時には、〝すわ、マナステラとの密約が漏れたのか!?〟――と色を成したのだが……やや落ち着いて考えたところで、マーカスはともかくモルヴァニアに関しては違うだろうとの結論に落ち着いた。幾ら何でも距離があり過ぎる。
マナステラの件とは独立に、彼らなりに判断してイラストリアに話を持ちかけたのであろう。
「その回答として、モルファン王女の歓迎パーティというのは……打って付け――か」
「留学とパーティ自体は来年になるとしても、その打診は早い方が良いでしょうからね。直ぐに連絡したとしても、別におかしな点は無い訳で」
マナステラとも調整する必要はあるだろうが、その方針で進めても問題は無いだろう。
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長くかかった討議がほぼ終わりに近付いたところで、ローバー将軍がふと漏らす。
「しかし……紙っぺら一枚を折っただけのもんに、随分と多くの情報を仕込みやがったもんだな……」
一同大いに同意したのであった。




