第二百三十一章 折り鶴のメッセージ 12.王都イラストリア 国王執務室~折り紙工芸~(その2)
元を辿れば、いつの間にか手許に集まった古酒を消費する口実として、国王がパーティ開催をぶち上げたのが発端である。運が好いのか悪いのか、モルファンからの申し出によってパーティの口実は整ったものの、今度は参加者の人選と、パーティの目玉に頭を悩ませる事になった。
大国モルファンが隣国イラストリア――このところ常に騒ぎの中心にある――と友好を、しかも王女の留学という形で友誼を結ぶというのだ。周辺の国々が拱手傍観している筈も無い。最低でも然るべき使節を送って寄越すであろう。ここはイラストリア王国として、恥ずかしくない歓迎の宴を開かねばならない……
さてそうなると、怨嗟に満ちた悲鳴を上げるのは財務部である。
国王の気紛れに端を発した「パーティ」のために、食器という形で余計な出費を強いられた。運好くもそれが功を奏して、どこに出しても恥ずかしくない食器の名品を揃える事はできたのだが、そのせいで予定外の痛い出費を強いられたのは事実である。おまけにモルファンの王女留学に絡んで、これまた予定外の道路整備を、大慌てで予算に盛り込む羽目になった。
当面の予算に関しては――パーティへの参加を希望する貴族たちから巻き上げるという不穏当な案もあったが、まぁそれは措いといて――機密費と王家の私財から立て替える事で何とかなった。幸いにシャルドの整備と絡める事ができたので、投下した資金は遠からず回収できそうな見込みである。
とは言っても、当初予定よりパーティの規模も大きくなりそうな雲行きで、そうなると食器の追加も考えねばならない。前回購入した食器との釣り合いを考えるならば、次回もノンヒュームから「幻の逸品」を買う事になるのは避け得ない。
のみならず、これに料理や素材の手配までもが加わる訳だ。
幸いと言うべきか、デザートにはノンヒュームたちの砂糖菓子店「コンフィズリー アンバー」を当てにできるが、これとて丸投げの任せきりという訳にはいかぬ。更には酒の手配もあり、こちらもノンヒュームとの調整が必要な案件である。
しかも――本番の王女殿下歓迎パーティーに先んじて、特使たるカールシン卿の歓迎パーティーも開かねばならない。こちらは王女殿下の時より慎ましくする必要があるが、然りとて手を抜く訳にはいかない。
以上の現況から導き出される結論は……財務としてはこれ以上の出費は断固として拒否したい、できればパーティの費用だって削りたい――というものであった。
彼らの主張には大いに頷ける部分もあるものの、国としての威信が懸かっているとなれば、手を抜く事ができないのも事実である。
そんな時に、余計な出費無しに他国の使節を瞠目せしめるような、「目玉」が手に入るとなればどうなるか? これこそ文字どおりの「天佑」ではないか。
「つまり――この紙工芸をその〝目玉〟にしようってのか?」
「〝目玉〟というほど大袈裟なものではありませんが、気付く者は気付くと思いますよ?」
「客の品評会まで兼ねるつもりか? 性格の悪い野郎だぜ……」
「酷い誤解ですね。そんな事は考えていません。考えているのは――」
「「「考えているのは?」」」
「パーティでこれを飾っておけば、出席したノンヒュームたちが気付いてくれて、上手くすればⅩにも伝わるのではないか――と、それくらいですよ」
しれっと言ってのけたウォーレン卿に、他の三人は呆れ顔である。
Ⅹから渡された技術を、国としての公式パーティーに用いる。
それが何を意味するのか……
「……各国の使節は賑やかし――いや、目眩ましかよ。喰えねぇ野郎だ」
「だから誤解ですってば」
心外な――という感じで否定するウォーレン卿であるが、他の三人は疑わしげである。
「しかし……その策が成るためには、パーティにノンヒュームを呼ぶ必要があるのではないか?」
肝心要の前提条件はどうするのか? そう訝る宰相に卿が答えて曰く、
「学院の講師という触れ込みであるなら、パーティに招いたとしてもおかしくないでしょう? 何しろモルファンの王女殿下は〝ノンヒュームの文化を学ぶ事を希望〟して、我が国に留学して来られる訳ですから」
「あ……」
「そういうオチかよ……」
抜かり無くそこまで計算しての事であったらしい。……いや、ウォーレン卿の計算はもう少し先まで及んでいて――




