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第二百三十一章 折り鶴のメッセージ  9.王都イラストリア 国王執務室~空白の語るもの~(その2)

 確かに、この改竄(かいざん)された鑑定文が、一般的な形式に従っていると考えるならば、最初に来るのは鑑定対象の名前だろう。だが……Ⅹは何でまたそれを隠そうとしたのか?



「確かに、現物がここにある訳ですから、普通なら名前を隠しても意味がありません。ただし、今回の場合は……」

「成る程……この紙細工を何と呼べばよいのか……」

「少なくとも我が国では、これに類するような細工物は知られていません。しかし逆に言えば……」

「この紙細工の名前から、Ⅹめの出自が判るかもしれぬ……そういう事じゃな?」

「少なくとも、Ⅹの方ではその可能性を警戒したのではないかと」

「ふむ……新たに得られた知見ではないが、捨て去るには惜しい手懸かりよな」

「けどよウォーレン、消された内容についちゃ判んねぇんだろ?」



 宰相とウォーレン卿の会話が耳に入ったのか、将軍と国王も懐旧談に浸るのを中断して、こちらの検討に混ざる事にしたようだ。



「まぁ……それはそうですが……」

「だったらさっさと次へ行こうぜ」



 無駄と断ぜられるのかと思いきや、次の空欄を検討しろという事らしい。成否については依然疑っているものの、検討自体は面白いと思ってくれたらしい。



「二番目は……これまたおかしな空欄ですね。前後の文脈から判断すると、〝表裏〟にかかる説明文のような気がしますが……」

「……(へえ)りそうな単語に心当たりが無ぇな」



 幼年学校の頃はいざ知らず、成人して将軍職に就いた今では、面倒臭い書類なんかも廻ってくるようになった。文章の読解に関しても、それなり以上の経験を積んでいる。

 だが、そんな経験を幾ら引っ繰り返してみても、当該箇所を埋められそうな単語を思い付けないのであった。



「……ひょっとして、『単語』というのが間違いなのかもしれません」

「……消されたのはそれなりに長い『文』であったと?」



 成る程、そう考えれば説明が付きそうだが、



「いやウォーレン、消されたのが単語だろうと文章だろうと、それがこっちに判らねぇって点じゃ変わりが無ぇだろうが」

「いえ……その点は将軍の言われるとおりなんですが……必ずしも収穫無しとは言えないかと」

「どういうこった?」



 納得しかねるという顔付きのローバー将軍に、ウォーレン卿は考えを(まと)めながら自説を展開していく。



「まず、長い文章を消したという事は、言い換えると〝元の鑑定文に、Ⅹが消してしまいたい情報が多く含まれていた〟――という事になります」

「そりゃ……まぁ、そうなるな。……待てよ……てぇ事は……?」

「えぇ。〝Ⅹが隠したかった情報が多い〟、言い換えると、〝手懸かりが多く含まれていた〟という事になります。これだけならただの残念話で終わるんですが」

「こっちにゃ『鳥』っていう現物が四つもある訳だ。これを精査すりゃあ、〝Ⅹが隠したかった情報〟ってやつを探り出す事も無理じゃねぇ……そういう事になるか」



 軍人二人の結論を耳にして、おぉっという感じにどよめく宰相と国王。しかし、ウォーレン卿の解説には続きがあった。



「もう一つ。あの抜け目無いⅩの事ですから、それくらいの展開は予測できた筈です。なのに、情報を与える危険を冒してまで、我々に現物を渡してきた……」

「その事自体がⅩの(もく)論見(ろみ)を示唆しておるという訳か……」



 ――違う。


 クロウは深い考えなど何も無しに、その場の思い付きで折り鶴を渡しただけだ。四人組が深読みする〝(もく)論見(ろみ)〟など、最初から最後までありはしない。

 だが、これまで散々(クロウ)に引き摺り廻されてきたと信じる王国首脳部は、〝疑心暗鬼を生ず〟の(たと)えどおり、そこに(クロウ)の深い企みの影を感じずにはいられなかったのである。……実際には、混迷する事態の半分以上は、不幸な巡り合わせが原因であったのだが。

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― 新着の感想 ―
[一言] ウォーレンは孔明というより、紙上に兵を談ずの趙括みたいに実際が伴って無い感じ。
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