第二百三十一章 折り鶴のメッセージ 7.王都イラストリア 国王執務室~軽銀問題~(その4)
死霊術師シリーズの新作「貴方はだぁれ?」を昨日から公開しています。本日も21時頃に更新の予定です。宜しければこちらもご笑覧下さい。
「……冷蔵箱……か?」
「けど、冷蔵箱にゃ軽銀なんざ使ってねぇ筈ですぜ? ……ねぇよな?」
「軽銀と冷蔵箱の関連性か?」
もしもクロウに、冷蔵技術における軽銀の活用法を訊ねたら、少し考えて「製氷皿」という答が返ってきたかもしれない。アルミニウムは熱の良導体である。
イラストリアの四人組はそんな事は知らなかったが、何かを冷やす時の容器に使うのではないかという発想には至ったらしい。ただ……それがどういった結果をもたらすのかについては、皆目解っていなかったが。
「あの『鳥』を冷蔵箱の中に入れてみますかぃ?」
「さすがにそれは軽挙が過ぎるじゃろう。万一の事があっては一大事じゃ」
「『鳥』そのものを入れるんでなくても、軽銀なら問題無いでしょう」
「おぃおぃウォーレン、簡単に〝軽銀〟って言うけどな、どっから調達してくるつもりだ?」
「学院のドワーフ辺りが標本を持ってたりしませんかね? 彼らに話を持っていけば、廻り廻ってⅩのところに転がっていくかもしれませんし」
――というウォーレン卿の入れ知恵で、学院に要求を押し付ける案が可決された。
……彼らが実際に軽銀を持っているかどうかなど、斟酌されもしなかった。
「軽銀以外で、他に気になる記述とかはありましたか?」
「あると言えば……これも軽銀絡みではあるのじゃが……〝表裏に異なる着色〟という件であろうかの」
「あぁ……金属に着色ってとこですかぃ」
〝金属の着色〟と聞いてステンレスやアルミニウムの着色を思い浮かべた向きは、それは近現代になってから発達した技法のように思われるかもしれないが……厳密に言えばそうではない。日本でも古くから金属への着色技術が発達しており、骨董品や古美術品と言われるものにその技術の冴えを見る事ができる。解り易い例が刀装具……日本刀の鐔や目貫、小柄などの装飾であろう。
こちらの世界でも同様の着色技法が無い訳ではない。ダールやクルシャンクのような下っ端では見る機会も少ないであろうが、王家や高位貴族――忘れられがちだが、ローバー将軍は歴とした伯爵家の三男坊――ともなれば、それなりの宝飾品に接する機会も少なくない。なのに、なぜこうも折り鶴の色に食い付いたのかと言うと……
「冶金や錬金術の秘技とやらで、色を付けた金属を見た事が無い訳ではないが……」
「アレほど鮮やかな色付きは初めて見ますからな、確かに」
――これである。
クロウが折り鶴に加工した「アルミ板」は、厳密にはアルマイト加工を施されたもので、その際に酸化被膜に染料を吸着させる事で、鮮やかな着色を可能にしていた。例によってクロウがそういう細かな部分に無頓着であったせいで、イラストリアの面々は空前絶後のハイテクを目にする羽目になった訳だ。驚かない方がどうかしている。
尤も、さすがにここまで隔絶の度合いが過ぎると、技術を追求しようという気すら起きてこなかったようで、単に技術格差に長嘆息するだけで終わったのであったが。
「あの技術が軽銀だけのものなのか、それとも他の金属にも使えるものなのかは気になるが……何となく、我が国の技術では手に余りそうな気がするな……」
憮然とした表情でそう漏らす国王に、
「まぁ、この件についても一応は学院に問い合わせてみましょう」
――というところに落ち着いた。
「それで……他にご意見が内容でしたら、鑑定文の文面に基づく検討は一旦終わりにしませんか?」
「お手上げを確認して、スゴスゴ退散するって事か?」
「いえ、その前に、文面から消された部分について検討したいと思いますが」




