第二百三十一章 折り鶴のメッセージ 6.王都イラストリア 国王執務室~軽銀問題~(その3)
「いえ、問題の軽銀なんですが……Ⅹが敢えて薄片化したものを送ってきたのは、加工が容易な状態で提供できるという、意思表明の可能性もあるかと……」
――クロウが聞いたら驚愕を通り越して激怒するかもしれない。「面倒」の二文字はクロウの天敵である。
「加工をこちらに任せる……我々でも加工できるようにして渡すというのか!?」
信じられぬと言いたげな国王であったが、他の二人も同じような表情である。そんな旨い話があるものか? 況してや相手はあのⅩだぞ?
「いえ……そこで思い出して戴きたいのが、あの工芸品です。Ⅹはなぜ、態々軽銀をあのような形にして渡してきたのでしょうか?」
――クロウが渡そうとしたのは飽くまで「折り鶴」であり、それをアルミ製にしたのはほんの思い付き……と言うか、茶目っ気である。
「あのような形……?」
「鳥の形……という事か?」
これが日本人であったなら、千羽鶴から祈りを、更に平和の象徴を連想したかもしれないが、この世界にそのような認識は無い。ただしそれでも……
「鳥の形であると同時に、鑑定文には『縁起物』という語が残されていました。Ⅹがこの語を消さずに残しておいたという事は、これはⅩが我々に伝えたかった内容なのかもしれません。……勇猛さとは縁遠い『鳥』の形とともに」
「……武器への転用は認めぬ……Ⅹはそう言っておるというのか……?」
「〝武器への転用を認めない〟――というよりは、〝武器には向かない〟――と言いたいのかもしれません。実際に簡単に折り曲げられているようですし、触った感じでも堅牢さとは無縁のようですから」
「けどよウォーレン、そいつぁあんな薄っぺら……そういう事かよ……」
「ええ。Ⅹがああいう薄片状に加工したものを渡すつもりでいるとしたら、我々にはどうしようもありません。薄片を重ね纏めてインゴットにするのは、今の我々には難しいでしょうから」
「妙な期待をするな……って、釘を刺してんのか、Ⅹのやつぁ」
ウォーレン卿の解釈に、うぅむと唸るしか無い三人。単に穿っただけでなく、突飛な解釈に聞こえるが、事態そのものが充分以上に突飛で奇態なのだ。一周回って的を射た解釈なのかもしれないではないか。
「そうすると……Ⅹめの思惑は那辺にあるのじゃ?」
もはやお手上げという表情で、宰相は投げ遣りに問いを放つ。
「Ⅹはこちらの事情を充分に把握している筈です」
――そんな事は無い。
「その上で、このような形で軽銀を渡してきたところを考えると……」
一同は考える。
イラストリアにとって喫緊の懸案事項と言えば、このところ焦臭さの度合いを強めているテオドラムとの関係が筆頭に挙げられる。しかし、Ⅹの意図が軍備増強に無いとすれば、軽銀は対テオドラムを目的として与えられるものではないという事か。
「Ⅹのやつぁノンヒュームと結託してるみてぇだから、テオドラム絡みだと思ってたんだがな……」
「少なくとも、直接的な軍備のためだとは考えにくい……そういう事でしょう」
「するってぇと……残りはモルファンかマナステラですかぃ?」
「もしくは、ノンヒュームとの関係であろうな。本質的には同じ事だが」
「……モルファンとマナステラは除外していいんじゃないでしょうか。両国に関する事、しかも我々が思い付けない事となると、我々は両国に話を訊くしかありません。だとすると、Ⅹがここまで迂遠な手を使う理由が思い当たりません」
「確かに……モルファンなりマナステラなりに訊くんなら、話を秘匿できる訳が無ぇ。こんな勿体ぶった手を使う理由が無ぇな……」
「そうすると、本命はノンヒューム絡みか?」
「それに加えて、あの軽銀の細工物か……」
一同は更に考えを進める。
「素材」という形でこちらに渡し、「加工」を任せるという事は……それは、取りも直さずイラストリアの技術力と国力を高める事に繋がる。……という事は、直近の事態に対するものではなく、もっと中長期的な視点に立ったものかもしれぬ。
そういったもので、しかもノンヒュームに関わりがあるとすると……




