第二百三十一章 折り鶴のメッセージ 3.王都イラストリア 国王執務室~不穏な鑑定結果~
場面代わってこちらは国王執務室。
ダールとクルシャンクの二人組が持ち帰った報告書と物証を前にして、いつもの四人組が額を寄せ集めているところであった。
「学院のお偉いさんがブツの鑑定を済ませたって聞きましたが?」
胡散臭そうな目で折り鶴を睨んでいるのは、王国軍第一大隊の指揮官にして国軍総司令官を兼ねるイシャライア・ローバー将軍である。そして将軍の問いに答えたのは、その又従兄にして王国宰相の任にあるライル・ライオネル・カーライル卿であった。こちらも将軍に負けず劣らずの渋い表情である。
「……一応な。報告書にあったとおり、改竄の痕跡があったそうじゃ」
「改竄……」
「……ですか」
ダールとクルシャンクが問題の折り鶴を旅の商人に鑑定してもらった際に、妙に簡潔すぎる鑑定文に違和感を感じた。商人が何か隠しているのかとも疑ったが、様子を見る限りではそうとも思えない。第一、祖国へ帰れば直ぐに判る事ではないか。何でこの場を誤魔化そうとする?
不審に思った二人が商人を問い詰めた結果判明したのは、商人の方でも鑑定文に違和感を感じており、その事を言うかどうか迷っていた――という事であった。商人としての矜恃から、確たる証拠も無い漠然とした違和感を、妄りに口に出すのを躊躇ったらしい。
その経緯についても報告書に記してあったため、折り鶴の現物が届くやいなや、王立講学院――通称・学院――きっての【鑑定】スキル持ちに鑑定させたところ……その結果が宰相の言うとおりのものであったのだ。
「【鑑定】結果の改竄って……んな事ができるもんなんですかぃ?」
「できるのじゃろうな。現にこうして改竄されておる訳じゃし」
「……学院の方では何と言っているんです?」
「高位の【鑑定】スキル持ちが自分への【鑑定】を弾いたり、一部を隠蔽するような事はあるそうじゃ。尤も、それとて並みの術者にはできぬと釘を刺されたが」
「……今回のような物品の【鑑定】結果については?」
「聞いた事が無いそうじゃ。ただ、実際に人物の鑑定を阻害する事ができる以上、全くの不可能とも思えんと言うておった」
「で、こいつがその証拠って訳ですかぃ」
ダールとクルシャンクが持ち帰った四つの折り鶴を横目で見つつ、不貞腐れたように言い放つローバー将軍であったが、事態が面白くないのは他の面々も同じである。どうせこれもⅩの仕業だろうが、相変わらず力量差を見せ付けるような……嫌らしい手を打ってくる。
「……学院での【鑑定】結果はどうなっています?」
改竄の痕跡があるというなら、どこが改竄されているのか知りたいものだ。そんなウォーレン卿の思いを察したのか、
「あ、いや。〝改竄〟と言うたが、実際は〝削除〟の痕跡があったという事じゃ。……これじゃな」
宰相が四つの【鑑定】結果のうち一つを取り上げて見せてくれたが、
《(削除)一枚の紙を折る事によって鳥の形を造形した縁起物。(削除)表裏で色の異なる紙を用いる事で、本体と尾羽の部分が異なる配色になるように工夫してある。
(削除)本来は正方形の紙一枚を折って、切る事も貼る事も無く作るものであるが、これは(削除)軽銀(削除)の薄い板を折って作られている。表裏に異なる着色が為されているため、本体と尾羽の部分で配色が異なるようにできている》
――他の三つの鑑定結果も、折り鶴の説明に違いはあれど、大同小異と言っていいものであった。




