第二百三十章 王都イラストリア 1.カールシン卿の謁見(その1)
本日21時頃、「ぼくたちのマヨヒガ」更新の予定です。宜しければご笑覧下さい。
「仮にも主を一人で走り廻らせておいて、随分とゆっくりしたご到着だな」
皮肉な口調でそう言い放つカールシン卿の面前には、神妙な面持ちで項垂れている者たち。カールシン卿の使用人として派遣されてきた一行である。メンバー選びが紛糾した結果、カールシン卿に遅れる事何と七日にして漸く王都イラストリアに辿り着いたのであるから、卿がお冠なのも当然と言えよう。
「お前たちの説明だか釈明だかは後で聞く。俺はこれからイラストリア側と会って話を詰めねばならんのでな」
お小言延期の宣告に、僅かに安堵を見せた使用人一同であったが、そこへカールシン卿の容赦無い追撃が飛ぶ。
「言っておくが、我々の住居など決まっておらんぞ? 貴様らの人数すら判らんのでは、手配のしようも無かったからな。俺が今もって宿屋住まいなのは見てのとおりだ。貴様らも当面の宿は自分たちで都合しておけ」
不機嫌にそう言い捨てたカールシン卿は、途方に暮れた様子の使用人一同をその場に残し、単身イラストリア王城へ歩みを進める。外務に携わってきた経験から、内心の憤懣を押し隠す事には成功しているが、その実は――
(全く……イラストリアに赴任するというだけで、その席を得ようと足の引っ張り合いを演じるとは……本国の馬鹿どもは何を考えているのだ……)
早々に特使の座を獲得したが故の言い分だという事は、カールシン卿も心の隅で自覚しているのだが……それを除けても今回の件は、あまりに愚かし過ぎる気がする。他ならぬこの自分までが、供揃えが紛糾したせいで出発が遅れ、待ちきれずに従者と二人だけで任地にやって来る羽目になったのだ。
この後にイラストリア国王への謁見が控えている身であれば、不機嫌そうな気色など漏らす訳にはいかない。カールシン卿は改めて気を引き締めるのであった。
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さて――気を引き締めてイラストリア国王に謁見したカールシン卿であったが、心中で燻っていた本国の馬鹿どもへの不満は、そうそう押し込め得るものではなかったらしい。
型どおりの挨拶から始まって、表面的には柔やか和やかな遣り取りを続けていたのだが、
「ほぉ……お供の方がお着きになられたと」
「想定よりも大人数になりましたが」
カールシン卿と言葉を交わしているのは宰相である。
国王に謁見が適ったとは言っても、貴族とは言え侯爵家の三男坊に過ぎないカールシン卿では抑身分が違う。国王相手においそれと話し込むなどできない――と言うか、双方の心臓に宜しくない――ので、主たる話し相手は宰相か外務卿が務めていた。
抑の話、通例であれば仮令それが大国モルファンの特使であろうと、一介の使節に国王が直接会う事はほとんど無い。今回それが実現したのは、
・カールシン卿の任務が、王女留学という両国の大事に関わるものであった事。
・同じ任務を受けた前回の使節団も既に謁見しているという前例があった事。
・必要なら国王の立場を笠に着て、少し突っ込んだ内容まで訊き出そうという、イラストリア側の思惑があった事。
――などの理由があったのだが……それはそれとして本題である。
イラストリア赴任の座を巡って本国の馬鹿どもが愚にもつかぬ争いを演じた事への不満と反感が、再びムクムクと募ってきたらしいカールシン卿は、この時にその鬱憤の一部をあけすけにぶち撒ける事にした。あまり外聞の宜しくない、下手をすれば国辱とも受け取られそうな話であるが、ここで正直にカミングアウトしておかないと、イラストリアに迷惑がかかった時の反応が怖い――と、素早く算段を巡らせた結果である。……まぁ、本国の馬鹿どもへの意趣返しという側面が無かったとも言いかねるが。
「何と……それほどの大人数に……」




