第二百二十九章 イスラファン南街道安全保証計画 8.作戦遂行能力
『少し視点を変えてみましょう。「最終回作戦」遂行のために、我々としては何ができるのか。まずは動かせる〝資産〟がどれだけあるのか、そこから考えてみてはどうでしょうか?』
『ふむ……』
『成る程……』
切り口は変わる事になるが、最終的な目標が達成されるのなら問題は無い。何より、キーンの主張に籠絡されると、ピントのずれた議論ばかりが空転しそうな気がする。
そういう判断から、クロウはクリスマスシティーの動議を採択した。
『俺たちが現状で動かせるものと言えば……まず、資金となると少し心許無いな』
『そうなの? クロウ』
砂糖やらビールやらで荒稼ぎしていそうなイメージがあるが、実は現金の大半は、連絡会議に預ける形でプールしてある。……と言うか、正確には品物を卸した後に代金を回収するのを忘れていた。クロウが活動するための資金程度なら、別口で細々と回収できているため、必要性を感じなかったというのもあるが。
手許に現金が無いという事を別にしても、砂糖やビール絡みでの収入額は連絡会議も把握しているため、秘密裡に運用するのには向いていない。
かと言って、ノンヒュームたちを蚊帳の外に置いたままで荒稼ぎ――というのも難しい状況なので、「最終回作戦」の作戦資金となると、あまり多額は準備できないのが実情である。
『……あれ? でもクロウ、海賊の宝箱か何かに、金貨がぎっしり詰まってなかった?』
『確かに金貨はあったんだがな……ハンスの見立てでは、あれは全部が年代物の、しかも他所の大陸の金貨らしいぞ』
現行の通貨ではないから、地金としてしか使えない。しかも異国の古代金貨となると、受け取った側の興味を引く事、取引後も記憶に残る事は疑いが無い。鋳潰して金塊として使う手はあるが、やはり取引が面倒で目立つのは避けられないだろう。
『そういう訳だからな、資金としては使い処が難しい訳だ』
『ふ~ん、そうなんだ』
では、資金の運用に難があるとなると、人的資産はどうなのか。
『こっちもあまり余裕は無いな。単純な人数ならともかく、怪しまれないように動かせる人員となると……』
『あぁ……ほぼ全員がアンデッドだものね』
アンデッドとばれた事はこれまで無いが、だからと言って無警戒に活動させる訳にもいかない。勢い、人間社会に混じっての活動には掣肘が加えられる。
『死んだ時点で生前のコネとかは使えなくなってるし、何より見た目の変化が大きいからな』
クロウの【死霊術】特有の現象なのか、クロウが生み出したエルダーアンデッドたちは、揃いも揃って容貌が生前とは一変している。最も変化の大きかったイズマール――アムドール・ソレイマンの従者としてヴィンシュタットに赴任中――などは、右眼の刀疵が綺麗さっぱり無くなって視力を回復した上に、浅黒かった肌の色まで白く変わっている。まずもって肉親でも見分けは付くまいという事で、元・テオドラムの兵士という出自にも拘わらず、堂々とヴィンシュタットに赴任しているくらいなのだ。
『つまり、現状ではカネ・コネ・人手が当てにできないと……これ、ほとんど詰んでないか?』
実働部隊がほぼ壊滅という現状を再認識して、クロウと眷属たちの顔が曇る。この現状で選べる選択肢は――
『謀略一択……か?』




