第二百二十九章 イスラファン南街道安全保証計画 6.ヒーロー候補者?
『男爵家の出来損ないの三男坊だと?』
クロウの注文に合うかどうかは判らないが――と、あまり気は進まない体でマリアが進言してきた内容は、甚くクロウの注意を引いた。
『はい。カール・ルイ・オルトゥーム……オルトゥーム男爵家の不出来な三男坊です。過去に少しばかりイザコザがありまして……』
言葉を濁すマリアを見て、カイトたちパーティメンバーは、
((((あぁ……十五歳のマリアに言い寄って殴り倒された貴族のボンボンっていうのは、そいつの事なんだな……))))
――と、嘗て聞かされたマリアの昔話を思い出していた。
尤も、殴り倒した云々というのは飽くまでマリアの自己申告であって、その真相は〝マリアを力尽くでモノにしようとして、股間にファイアーボールを叩き込まれて悶絶した〟……という、あまり大っぴらにできないものなのは、ここだけの話である。
そこまでの事情はクロウも知らなかったが、何やら黒歴史のようらしいと察しを付ける事はできたので、深く掘り下げるのは止めておく。
『ふむ……イザコザの内容については追及しないが、使えそうな馬鹿なのか?』
『付き合いらしい付き合いはありませんでしたが……私個人の印象と、後になって耳にした人物評などから判断すると、〝事態を大きく動かすほどの積極性は無いが、ちょっと突けば直ぐ悪乗りして、後先考えずに走り出すおっちょこちょい〟――というところではないかと』
『何と……理想的な人材じゃないか』
〝上手にかどうかは判りませんが、踊ってくれるのは確かだと思います〟――というマリアによる人物評を聞いて、これなら適役かもしれぬと考え込むクロウ。
『それで……そいつに渡りを付ける事はできるのか?』
少しばかり乗り気になったクロウであったが、生憎とマリアの答は、
『……申し訳ありません。ひょっとすると難しいかもしれません』
――というものであった。
マリアによれば、三男という事を別にしても、到底家を継げるような器量ではないとの事。何しろ直結型の馬鹿なので、不行跡が過ぎて生家を追い出された可能性も無視できないという。
『盗賊に落ちる程の度胸は無いと思いますし、冒険者辺りに納まっている可能性は否定できません。……生きていれば、ですが』
『そうすると……そいつを探し出してイスラファンに来させるところから始めなきゃならんのか……』
『もしも冒険者として登録していれば、ギルドを通して呼びかける事は可能ですが』
『登録してなくても、冒険者ギルドに人捜しの依頼を出すって手もありやすけどね』
やろうと思えば探せない事も無いようだが……面倒臭い事に変わりは無い。
もうこれだけでモチベーションが低下した気がするクロウであったが……冷静になって考え直してみると、他にも幾つか問題点のある事に気が付いた。
『思ったんだが……百鬼夜行であれだけの事をやらかした以上、黒幕というのはそれなりに強力な筈だよな?』
クロウは一同に確かめるが、反対の意見は上がらない。
『だとすると……そんな黒幕を退治する「正義の味方」も、それ相応に強くなくてはならんだろう。その三男坊とやらはどうなんだ?』
クロウがマリアに確認したところ、とてもそうとは思えない――という答が返って来た。まぁ、十五歳のマリアに手を出そうとして、逆に玉を焼かれて悶絶するような輩である。それ以後の年月を有意義に過ごしたとも思えない。「正義の味方」など、どう考えても力不足ではないか?
マリアが貴族のボンボンを殴り倒した話は、お気づきの方もいらっしゃるでしょうが、(確か)電子版二巻付録のSSとして公開されたものです。




