第二百二十九章 イスラファン南街道安全保証計画 4.偽りのヒーロー(その2)
言われて従魔たちも考え込んだ。
権威なり実績なりの裏付けを持ち、それでいて上手い具合に踊ってくれそうな馬鹿……
『もしくは、こっちの計画に乗ってくれそうな腹黒だな』
『そっちはもっと難しいんじゃないの? 実質的な共犯って事でしょ?』
『と言う事は……実績のある馬鹿に決まりですかな?』
『条件がぁ、矛盾してませんかぁ?』
『いえ……後ろ盾になっている……者が……馬鹿というのでも……いいのでは……?』
ハイファの指摘で一同が想い浮かべたのは、
『『『『『――ヤルタ教?』』』』』
『断固として却下だ』
確かに、歴代「勇者」の実績に鑑みれば、ヤルタ教の勇者ならその条件を満たしていそうではあるが、
『抑、今のヤルタ教に勇者はいるのか?』
『そう言えば……あまり噂を聞きませんな』
任命した「勇者」が立て続けにダンジョンで返り討ちに遭った上、つい先日には教主自らが「幻の革」に呪われるという不祥事があったばかりのヤルタ教は、新たな「勇者」の任命にも難儀しているのが実情であった。尤も、クロウたちはそこまでの内情を探り出してはいない。積極的に関わるほどの価値は無いが、見つけた時点で潰しておけばいい――と、不快害虫並みの扱いであった。
『そうすると……名の知れた冒険者って事になるんですか? 主様』
『冒険者か……』
確かに、有力者の紐付きに心当たりが無い以上、知名度の高い冒険者を使うぐらいしか選択肢が無いように思える。
『しかし……上手い具合に踊ってくれそうな、そんな手頃に馬鹿な冒険者がいるのか? あまり突き抜け過ぎた馬鹿だと、こっちの思惑まで引っ繰り返しかねんぞ?』
何しろ、ギルドの依頼を受けてアバンの調査にやって来た冒険者など、廃村でいきなり火魔法をブッパするという暴挙に出たのだ。他にも、「災厄の岩窟」に侵入したトンチキ冒険者もいたし……「還らずの迷宮」に引き込んだテオドラムの密偵も冒険者上がりだった。
冒険者の全員がそうだとは思わないが、どうもクロウたちに関わってくる冒険者には、問題のある者が多そうな気がする。
『と言うか……まともな神経を持っておれば、こやつに関わろうなどとは思わんのじゃろうな』
『貴族にも、能天男爵とかいましたからねぇ……』
他に思い付く人材と言えば、
『ますたぁ、ルパさんはぁ?』
『あいつにそんな器用な立ち廻りができると思うか? どう考えても突き抜け組だろう』
『それ以前に、ダンジョンに関する実績という点で、適格性を欠いておりますな』
斯くの如く思案に余ったクロウが下した結論は、
『……他のやつらの意見を聴いてみるしか無いな』
例によって眷属会議の招集というものであった。




