第二百二十八章 モルファン王女留学問題~波紋さまざま~ 3.エッジ村&クロウ~友禅染め 篇~
拙作「ぼくたちのマヨヒガ」を更新しています。宜しければご笑覧下さい。
「……そこまで強気に出て……いいもんだべか……?」
「いや、ここで強気に出なくてどうするんです? 向こうの要求を丸呑みしてたら、エッジ村は遠からず破綻しますよ?」
本来なら領民が領主の意向に盾突くなど畏れ多いにも程があるし、クロウとてそれは解っている。ただ、この場合は言うべき事を言っておかないと、拙いというのも事実である。現場を知らないお偉方の我が儘に振り回されて村が破綻するなど、断じて容認できるものではない。時間も資源も労力も有限だというのに、勝手な注文などさせておけるか。
「だからと言って、こっちが増長するのも拙いですけどね。ただ今回に限っては、こっちの限界ってものを明確に伝えておくべきです」
さもないと際限無く要求がエスカレートするぞ――というクロウの忠告は、村人たちにも身に沁みて理解できる。お貴族様というのは得てしてそういうものだ。
「幸い、男爵様に献上したのは型染めですから、前回と同じ柄のものを準備する事は難しくありません。……けど、この事は当分黙っておいた方がいいでしょうね」
クロウの提案に、村長以下も黙って頷いて同意を示す。技術の秘匿という以前に、型染めなら幾らでも量産できるだろう――などと思われると迷惑なのだ。
「で……肝心な話、間に合うんですか?」
「そらぁ、村中総出でしゃかりきになってやれば……だども、畑の世話もあるで……」
この時点でクロウは、領主への要求の中に〝来年度の年貢の完全免除〟も組み込むべきだと判断。少なくとも畑にかける労力を削減しないと、友禅染の手配は間に合わない……と主張すれば、向こうも受け容れざるを得ないだろうとの読みである。
「そら……年貢の分だけでも減らしてもらえるんは助かるだども……そこまでせんでも、ちっとんべぇ無理をすりゃ何とか……」
「いえ……飽くまで俺の想像ですけど……ホルベック卿の奥方が注文しているのは、来年エルギンを訪れる王女様ご一行をお迎えするための装いですよね?」
「そう聞いてっけど……?」
「いえね……王女様が王都に到着あそばした後、歓迎パーティとか開かれませんかね? もしそうなると、ホルベック卿を始めとして、パーティに招かれるお偉方は多いのではないかと……」
「「「「「あ……」」」」」
ここまで言われれば、村長たちにもクロウが懸念している事態は想像が付く。その時になって慌てるよりも、今のうちにソレに備えた態勢を整えておこうという訳だ。
その後、全員で討議を重ねた結果、
「……日程の制約から大物は用意できない、配色や詳細なデザインに文句を言わない、下地の布や染料・媒染剤など――少し多めに請求しておきましょうか――は領主様の方で用意する、エグムンド男爵夫人とオーレンス子爵夫人への納品スケジュールに影響が出た場合は、領主様の――正確には奥方様の――責任において説明する……この辺りが落としどころじゃないでしょうか」
「んだな」
――というところで決着したかと思われたのだが、村人の一人が別件を持ち出した事で、会議は再び紛糾する事になる。
「……友禅染めはそれで善かっぺぇだども……丸玉の方はどうするだ?」




