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挿  話 その男、ゴルバ

挿話ですが、次話から始まる新章のプレリュード的な位置づけになります。

 気の早い木々が葉の色を紅く、あるいは黄色く染め始める頃、イラストリア王国中西部の山麓で行方不明の少年を捜す男の姿があった。冒険者として活動するかたわら行く先々で少年の事を尋ねる男の姿は、既に多くの住民が知るところとなっていた。ヴァザーリの夜襲ではぐれた幼い甥――という事にしてある――を捜す彼に同情した者は、自分たちの事情の許す限りで聞き込みを手伝ってくれたが、幼い少年の消息は依然として途絶えたままであった。


 亜人たちによるヴァザーリの奴隷解放戦から、既に一月以上が経っていた。


 護衛の男がかくも執拗に少年を捜すのは、別に少年に思い入れがあるからではない。少年の正体を隠して身の安全を図るために、道中も少年には近寄りも話しかけもしなかったのだから、親近感というものを抱く機会はなかった。


 それでも男が少年を捜すのは、ただプロとしての矜恃(きょうじ)――あるいは意地――のためである。


 僅かに目を離した隙に起きた騒ぎで少年の行方を見失い、今に至るまで生死不明。そんな報告をマナステラにいる依頼者に届けるくらいなら、どれだけ時間がかかろうとも少年の行方を突き止める――たとえ生死はどうであれ。男はただそれだけのためにこの国に留まっていた。



「ゴルバか?」



 亜人によるヴァザーリ襲撃から二ヶ月以上が()とうかという頃、見た事のない男が現れて、そう声をかけた。

 こちらの攻撃が届かない距離を確保していることからして、素人ではない。ゴルバと呼ばれた護衛の男は、何気ない風で袖の中に隠した暗器の状態を確かめながら応じた。



「お前は?」



 見知らぬ男の問いに対して、馬鹿正直に答えるような真似はしない。どう(こた)えるのかと思っていると、相手の男は何も言わずに、ゆっくりした動作で何かを放って寄越(よこ)した。


 足もとに落ちたそれに、ゴルバは思い当たる節があった。黙って自分も割り符を取り出し、ゆっくりと割れ口を合わせてみる。ぴたりと合ったそれをひとまとめにして、今度は見知らぬ男の足もとへ投げ返す。ゆっくりと。



「……割り符を確かめた。俺はホルベック様からの使いだ。若様は無事にこちらへ着いた。確かめたいのなら案内する」



 ゴルバと呼ばれた護衛の男は、自分の仕事が終わりに近づいた事を知った。



・・・・・・・・



「それで、ゴルバといったか? その男はどうした?」

「坊ちゃまのご無事を遠目に確かめた後、国へ戻りました。依頼者に報告する義務があると言って。依頼者の事は何も口に出しませんでした」

「ふ……む。プロよのぅ」

御意(ぎょい)

次話から新章の本編に入ります。ちなみに本話のタイトルは、某小説および映画のもじりです。

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