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第二百二十七章 てなもんや三国同舟 6.クロウ

 さて――迷姫(まいひめ)ことリスベット・ロイル嬢が一人でモローの町外れに現れた経緯(いきさつ)はというと……実は、思いがけずもその一因となったのはクロウであったりする。とは言っても、(そもそも)の発端を持ち込んだのは、マーカス在住の罪無きドワーフたちであったのだが。


 勘の良い向きはお察しであろうが……ドワーフたちが持ち込んだ〝ダンジョン内における変成鉱物の可能性〟という指摘は、ダンジョンロードたるクロウにとっても青天(せいてん)霹靂(へきれき)であったのだ。


 だが――我々は少しばかり先を急ぎ過ぎたようだ。まずは時系列に従って、ここまでの経緯(いきさつ)を眺めてみるとしよう。



・・・・・・・・



 リスベットの両親がこの時期にシャルドを訪れたのは、一つには五月祭での反省からである。五月祭のバンクスの混雑振りを甘く見たばかりに、(まな)(むすめ)リスベット――その時は少女の祖父に当たる先代ロイル卿と一緒であったが――の引き起こした迷子騒ぎで、旧友パートリッジ卿だけでなく、ホルベック卿のご子息だという若者にまで迷惑をかける事になったのだ。

 その同じ(てつ)を踏みたくない思いと、イラストリアでの(もの)見遊(みゆ)(さん)と買い物三昧(ざんまい)を諦めきれない両親――主に母親――の葛藤の結果、五月祭に負けず劣らずの大混雑となるであろう新年祭の前にシャルドを訪れる……という妥協案に走ったのであった。

 ちなみに、イラストリア――正確にはそこのノンヒューム――との友誼を深めたい反面で、対テオドラムの密約を知られたくないというややこしい境遇に陥ったマナステラが、こういう草の根的な交流を奨励している事もあって、ロイル一家のイラストリア訪問はとんとん拍子に実現の運びとなっている。


 さて、愛娘(リスベット)の監視と追跡に()けた使用人を特に選抜して連れて来るという、あまり他では聞かないような配慮と気苦労と用心が奏功して、シャルドでの愛娘失踪は未然に防ぐ事ができた。

 そこで気を抜いたのが良くなかったのか……シャルドの次に訪れたモローで、迷姫(まいひめ)リスベットがその(てん)()()(かん)()く発揮したのである。


 ――これが一つめのトリガーであった。



・・・・・・・・



 場面変わってクロウ陣営の状況である。


 連絡会議を経由して、ダンジョンの魔力による物質変成の可能性などという驚くべき情報を得たクロウは、(ただ)ちに眷属(ちえぶくろ)会議を招集した。その結果……



『……あり得ないとは言えん訳か……』

()(よう)ですな。(それがし)もつい失念しておりましたが……』

『ご主人様の……ダンジョンは……(いず)れも……ご主人様の……魔力によって……生み出された……ものですから……』

『その際に何らかの変成物が生じた可能性は――無視できません』

『魔石もバンバン作ってますしね!』

『むぅ……』



 ネス・ハイファ・ダバル、ついでにキーンといった面々からの忌憚の無い指摘を受けて、やや凹みながらも考えるクロウ。


 ①クロウはただのガラス玉を、ダンジョンマジックで魔石に変えることができる。

 ②クロウの麾下(きか)のダンジョンは、一部を除いてクロウの魔力によって生み出されたものである。


 この二つの前提から導き出される結論は、


 ③クロウのダンジョン内部には、創成時の魔力を浴びて変成した物質が存在している可能性を否定できない。


 ――というものになる。そしてもう一つ、



『ダンジョンコアを含めて一気に創り上げた「災厄の岩窟」では、何もおかしなものは見つかっていない――少なくとも、毎日のようにダンジョンに潜っているテオドラムとマーカスが発見していない――訳だから……』

(むし)ろ「岩窟」に較べると時間をかけて創られた、モローの双子の迷宮が怪しい……という事になるのぉ』



 モローの双子のダンジョンとて、一夜にして現地に御目見得(おめみえ)したのは同じであるが、「災厄の岩窟」ほどに華々しいデビューは飾っていない。前から兆候はあったのを見過ごした……との見方も否定はできなかったのである。

 「災厄の岩窟」を怪しんだマーカスのドワーフたちとは真反対の判断だが、言うまでも無くこれは、「災厄の岩窟」内の情報を知っているかどうかの違いによる。

 なお余談ながら、双子の迷宮と同じくらいの手間をかけて育てられた「クレヴァス」の方は、入口が狭くて人間が立ち入る事はできないし、それ以前にダンジョンだと気付かれてもいないとあって、当面そこまでの緊急性は無いと判断されている。



『……()むを得ん。この件が広まって騒ぎになる前に、ダンジョンモンスターたちを動員して調べさせる。あぁ……念のために、ダンジョンの外周部分も確認させた方がいいか……』



 ――これが二つめのトリガーであった。

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