表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1173/1810

第二百二十七章 てなもんや三国同舟 5.迷姫(まいひめ)登場

「いや……この混雑の原因が労働者たちだとすると、(かえ)って高級な宿とかでは、部屋が余っているんじゃないですか?」



 成~る程、それなら……と思った一同であったが、(いぶか)しげな声を上げる者もいた。



「いや……この町に高級宿なんてもんがあったのか?」



 疑わしげな異論を上げたバートに続いて、ジャンスも首を(かし)げる側に廻る。



「……行きがけに泊まった時にゃ気が付かなかったが……?」

「いや、最近は観光客も増えてきたという話だし、探せば無い事も無いんじゃないか?」

「けど、部屋の空きがありますかね?」

「それは……いや、その前に、問題の高級宿ってなぁどこにあるんで?」

「さぁ……」

「『(やす)らいの()(ぶき)』亭。町から少し離れているけど、お薦め」

「成る程、『(やす)らいの()(ぶき)』……って、誰!?」



 するりと会話に割り込んできた者がいた事に驚きの声が上がるが、そこにいたのは、



「お久し振り、お兄ちゃん」



 こまっしゃくれた真面目くさった様子で上品な挨拶(あいさつ)を返してきたのは、まだ幼さの残る少女。



「あれ……お嬢ちゃんは確か……」

「リスベット。お久し振り、ボリスのお兄ちゃん」



 (かつ)てバンクスの五月祭でボリスと出会っていたリスベット・ロイル嬢。「迷姫(まいひめ)」久々の登場であった。



・・・・・・・・



「え~と……確かリスベットちゃんだったよね? どうしてこんなところにいるのかな?」

「あのね、シャルドっていうところを見にきたの。お父さまとお母さまはよろこんでたけど、あたしはおもしろくなかったから、ジシュテキにほかの場所をケンガクしていたの」

「……シャルドからは随分離れてるんだけど、ここ。一人で来たの?」

「ちがうの。シャルドを見たあとで、ダンジョンっていうところを見にきたの」

「あぁ……ご両親と一緒に、モローのダンジョンを見学に来たんだね。で、ダンジョンの入口を外から眺めてるのもつまらなかったから、自主的に他の場所を見学していた――と」



 ボリスの任務は、一応はモルファンの一行を迎えるルートの下見であるから、当然モローの〝双子のダンジョン〟にも足を伸ばしている。冒険者ギルドから「接触非推奨」に指定されているだけあって、当然ダンジョンへの立ち入りは許可されておらず、遠くから入口を眺めるだけであった。……たったそれだけなのに、思ったよりも見学者が多く、世間には想像した以上に酔狂な茶人がいるものだと、ジャンス共々感心した憶えがある。あれなら確かに子供は退屈するだけだろう。抜け出そうと考えても無視はない。()して、この子はあの「迷姫(まいひめ)」なのだ……


 ――という具合に、何やらリスベット嬢のお気に入りらしいボリスが、彼女からの事情聴取に相務めている頃、当惑している他の面々に事情を説明しているのは、(かつ)てバンクスの五月祭で、ボリスとともに迷姫(まいひめ)リスベットに引き摺り廻された事のあるジャンスであった。



(「……成る程……そういう事が……」)

(「子供ながら予断を許さない相手のようですね」)

(「そういうこってさぁ。あの嬢ちゃんの言う事ぁ、額面どおりに受け取らねぇ方が賢明ですぜ。……いや、(うそ)()きだって言うつもりは無ぇんですがね。何たって使用人から、〝迷姫(まいひめ)〟なんて(あだ)()(たてまつ)られてるぐれぇですからね」)



 ……という危険度評価がまだ甘かった事を、彼らは遠からず思い知る事になるのだが。



(「しかし……カイト君といったか? 君たちもマナステラ出身なんだろう? 彼女の事を耳にした事は?」)



 カイトたちの出身は一応マナステラという事になっているが、それは飽くまで偽りの経歴であって、マナステラへ行った事など数える程しか無い。当然、迷姫(まいひめ)の噂など聞いた事も無い。

 しかし、姓名と経歴を偽ってはいても、冒険者としての経験を積んでいるのは事実であるから、こういう場合の腹芸顔芸の一つぐらいは無理なく(こな)せる。



(「こちとらしがない冒険者なんですぜ? 良いとこのお嬢さんとの接点なんかありませんて」)

(「それもそうか」)

(「ともかく――だ。あの子を放って置く訳にもいかないから、とにかくモローの町まで急ごう。一刻も早くご両親の(もと)に送り届けないといかんだろう。……ジャンス君の言うとおりなら、ご両親はあまり心配していない可能性もあるが」)



 ――という次第で、一行はモローへの道を急いだのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] おおう!?迷姫、再登場ですと?(久しぶりだなぁ(つか一発ネタキャラじゃなかったんだなぁ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ