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第二百二十七章 てなもんや三国同舟 3.ダンジョンロードの困惑

『それはまた……何ともおかしな話になったものだな』

「はぁ……」



 魔導通信機を介して余人の目と耳を(はばか)る会話を交わしているのは、冒険者(アンデッド)チームのリーダー・ハンクと、その上司たるダンジョンロードのクロウであった。

 何とも言いかねる因果の(しがらみ)に捉えられて、イラストリア王国軍第一大隊のボリスたち、並びにモルファンから派遣されて来た特別公使と、シャルドまで同行する羽目になった顛末(てんまつ)を報告しているところである。



「ハンスは、自分は――家を出されてはいるが――テオドラムの貴族の出である事まで匂わせて、話を断ろうとしたのですが……」

『先方に却下された訳か?』

「はぁ……そんな事よりも、当座の護衛を確保する方が重要であると切り捨てられまして」

『よほどに切羽詰まっているようだな……』

「はぁ……それもありますが……どうも、自分たちの出身をマナステラだと()(しょう)していたのもよくなかったようで……」

『あ~……そう言えばそうだったか……』



 エルダーアンデッド化したハンクやカイトたちを、改めて冒険者として活動させるに当たって、クロウはギルドカードの偽造に踏み切っていた。エメンという名うての贋作者に存分に腕を振るわせた上に、クロウのダンジョンマジックまで駆使してデッチ上げた逸品であり、まずもって見破られる心配は無い。

 ただ、カードの偽造は見破られないとしても、そこに記載する名前や出身地の情報には整合性が必要である。面倒を嫌ったクロウは彼らの出身を、当時は縁の無かったマナステラという事にしておいた。当時はそれで何の障りも無かったのである。

 ところが、イラストリアとテオドラムの間が焦臭(きなくさ)くなってくると、(いささ)か風向きが変わってくる。イラストリアとテオドラム、そのどちらに対しても――少なくとも表向きは――中立的な距離を保っているマナステラという国が、或る意味で存在感を増す事になったのである。



『どちらに対しても中立的なマナステラの冒険者なら、モルファンやイラストリアに対する悪巧みには(くみ)しない筈……そう思われたか』

「どうもそのようで……」



 ハンスが自らの出自を明らかにしたのも、意図とは逆方向に作用したらしい。テオドラム出身者を名告(なの)る者が、イラストリアとモルファンの公人――第一大隊の下っ端だって、公職に就く者には違い無い――に対して、大っぴらに好からぬ真似をするとは思えない……そう判断されたようだ。


 損得勘定や実利という点はともかく、感情的な問題だけを考えれば、そういう判断も故無きものとは言いにくい。と言うか、そういった感情論を上回るだけの利益を供与しないと(なび)かないマナステラの冒険者を、敢えて悪巧みに引き入れる利点が無い。そういう事を考えたらしい。



『随分と消極的な根拠だが、そんな根拠でも無いよりはマシか』

「それもありますが……ハンスが言うには……」

『うん?』



 元・テオドラムの主計士官であったハンスの見立ては、自分たちが何らかの謀略に関わっている可能性は低いと見積もったのではないか――というものであった。



「モルファンの公使殿は、突発的……と言うか、発作的に向こうを飛び出したようですから……」

『悪巧みを考えている者がいたとしても、日程的な問題から、この一件に対応した策を講じ得た可能性は低いか……成る程な』



 謀略の可能性が低いとなると、次に問題となるのはハンクたち冒険者の信頼度である。しかし、ここでそれを保証するのが、元・テオドラムの貴族であったハンスが彼らを雇っているという事実であった。仮にも貴族出の坊ちゃんを(しっか)りと護衛できているのだから、その為人(ひととなり)は充分に当てにできる……とでも考えたのだろう。

 残る懸念は、(そもそも)ハンスが嘘を並べているという可能性だが……



生憎(あいにく)と言いますか……我々の馬車の出来に目を付けたようです」



 彼らが乗っているのは馬車に見えるし、実際にも元々はそうであったのだが……今はクロウのダンジョンマジックによって、(れっき)としたダンジョンにジョブチェンジしている。

 ダンジョンであるが故に、あの馬車は外から加えられた衝撃をエネルギーとして吸収する。……という事は、悪路による「揺れ」のエネルギーも吸収するという事で、結果として小揺(こゆ)るぎもせずに悪路を走破できるという事なのである。

 よもやダンジョンであるなどとは思うまいが、何らかの画期的技術を活用していると誤解したとしても無理はない。そしてそういう馬車を運用できるからには、資力なり人脈なりもそれ相応の筈……という判断ぐらい下すであろう。



「地味な見かけにはしていますが、見る者が見れば品質の良さは隠せませんから」



 一応の表向きは貴族での()()んというハンス――その前に乗っていたのはカイト――の設定に信頼性を与えるため、華美ではないが上品かつ高品位な感じに仕上げていた。つくづく便利なダンジョンマジックであるが、この時はそれが裏目に働いたらしい。

 ついでに触れておくと、ボリスやカールシン卿が目を付けたのは馬車だけではなく、カイトたち冒険者組が着用していた防具――クロウがダンジョンマジックを駆使して、複数のワイバーンの革を合成して作り上げた代物――もそうなのであったが……()(かつ)にもハンクはそれに気付いていなかったりする。



『……まぁ何にせよ、そんな境遇に陥ったのなら仕方がない。得難い機会に恵まれたのだと前向きに考えて、精々(せいぜい)情報収集に精を出してくれ』

「解りました」

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― 新着の感想 ―
[一言] どうでもいいけどハンクとハンスがややっこしいなw
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