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第二百二十六章 「岩窟」を巡る者たち 12.クロウ(その1)

 連絡会議から――飽くまでも()り気無く――もたらされたその指摘は、クロウにとっては青天(せいてん)霹靂(へきれき)にも等しかった。



『魔力で鉱物が変成する!?』



 冷静になって思い返せば、当のクロウがガラス玉を原料に、魔石を散々量産しているのだから、同じ事がダンジョン内で自然に起きてもおかしくはないのであるが、そこに気付かないのが――広い意味での――「人類」というものなのだろう。クロウのみならず、眷属たちも精霊たちも、(やかま)し屋の爺さまにいたってすら、この件は意識の外にあった。



『魔鉄というものが実際に存在しますから、そのような可能性も(あなが)ち無視はできぬ訳ですが……完全に失念しておりました』



 申し訳無いと(うな)()れるのはネスとダバルの魔術師コンビであるが、



『魔鉄?』



 新たに聞き慣れぬ単語が飛び出した事に、クロウは困惑を新たにする。「魔鉄」とは一体何なのだ?


 困惑顔のクロウを見て、ネスが説明役を買って出る。そしてその説明を受けて、クロウは納得と困惑が相半(あいなか)ばする表情を浮かべた。



『魔力を浴びて変成した鉄か……』



 そう言えば、以前に読んだ事のあるラノベ――ラノベ作家(くろ)()として異世界ものを執筆するに当たり、参考資料の一つとして読んだ――に、そういうものが出て来たっけ……と、(おぼろ)()な記憶を掘り出すクロウ。〝事実は小説より奇なり〟と云うが、こっちでの「現実」がラノベの展開を斜め上に上回ってばかり――大抵はクロウのせい――なので、ラノベの記述を「現実」の参考にするのはとっくに諦めていた。そのせいで意識の片隅に追いやられていたようだが……今になって舞台中央に進み出て来たらしい。



(それにしても……)



 ――と、クロウは考える。

 仮にも「ダンジョンマスター」の部下たちの間で、今の今まで魔鉄の件が話題に上らなかったのはどうした訳か。


 内心で(いぶか)るクロウであったが、事情は極めて単純なものであった。



『魔鉄が存在しなかった訳か……』

()(よう)で……』



 クロウが麾下(きか)に置いているダンジョンは数々あれど、魔鉄の原料となる鉄鉱石を含むダンジョンが無かったため、土魔法持ちの眷属たちも、意識する事が無かったのだという。例外はシュレクの「怨毒の廃坑」――稼働中の鉄鉱山をダンジョン化したもの――であるが、あそこは鉄があって当たり前の場所であったため、逆に意識しなかったらしい。

 ダンジョン化の張本人であるクロウにしても、あの場所をダンジョン化したのは鉄が欲しかったからではなく、砒素による汚染を阻止するのが目的であった。なので砒素の分布には注意しても、鉄の分布は二の次三の後となっていたのであるからして、眷属たちを責める事はできない。


 そんな状況であるからして、鉄以外の鉱物が魔力を浴びて変成する可能性など、誰一人として脳裏を(よぎ)る事すら無かったのであった。


 ちなみに、「ピット」の地下には巨大な金・銀・銅の大鉱床が眠っているが、その位置はダンジョン本体のずっと下である。

 テオドラムと無関係な山師――就中(なかんずく)、ドワーフなど――がフラフラとやって来て、「ピット」に迷い込む事を懸念して、鉱床の情報は当面明かさない事になっている。「ピット」の任務は(ろく)でなしのテオドラムを近在から駆逐する事であって、無辜(むこ)の鉱山技術者を巻き添えにする事ではない。……それが「ダンジョン」の任務かどうかなど、今更気にしてはいけないのだ。

 ともあれそんな事情から、「ピット」はその地下の鉱床と直接に連絡しておらず、当然管理下にも置いていなければ、ダンジョンの魔力が鉱床に影響を及ぼす事も無い。鉱物が変成しているかどうかなど、情報が上がってくる筈も無いのであった。


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