第二百二十六章 「岩窟」を巡る者たち 11.マナステラ~王国上層部~(その3)
「……問題を少し簡略化しよう。我らマナステラが気に懸けるべきは、何を措いてもノンヒュームたちの挙動だ。商業ギルドの動きについてはその後でいい」
内容の正当性はともかくとして、大幅な労力カットが見込めそうなこの動議は、満場一致で採択された。
「そうすると……①テオドラムがドワーフに情報を与えた、②マーカスがドワーフに情報を与えた、③テオドラムからの情報を商業ギルドがドワーフに与えた、④マーカスからの情報を商業ギルドがドワーフに与えた……この四つでいいのか?」
「厳密には、⑤テオドラムとマーカスから情報を得た商業ギルドが、それをドワーフに与えた場合も考えられるが……」
「③④⑤は一纏めにしても構わんのじゃないか? どの情報がどこから得られたのかなど、検証のしようも無いだろうし」
「そうすると……ドワーフたちが得た情報の出所は……」
「①テオドラム、②マーカス、③商業ギルド、④ダンジョン外――となる訳だ」
「また劇的に単純化したもんだな……」
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「まず――テオドラムとノンヒュームの関係を考えるにだ、①はあり得んと思う」
「だな。ドワーフがテオドラムを訪れるとは思えんし、テオドラムにしてもノンヒュームに情報の提供などせんだろう」
「マーカスにはドワーフが居留しておるし、②はあり得るとして……③はどうなる?」
「ふむ……情報の裏取りのためにドワーフに問い合わせたというのは……あり得るか」
「だな。③は棄却する訳にはいかん」
「その場合、商業ギルドに情報を与えたのはどっちだ? テオドラムか? マーカスか?」
「う~む……」
テオドラムは基本的に統制経済国家であって、商業流通の規模は大きくない。テオドラムにおける商業活動は基本的にテオドラム王国商務部が相手で、取引の場所も幾つかの商都にほぼ限られている。
況して「災厄の岩窟」があるのは国境線。商都マルクトからもガベルからも遠く隔たっている。商業ギルドが訪れるとは考えにくいし、それ以前にテオドラムが接近を許さないだろう。
「そうすると……情報の出所はマーカスと考えていいか」
「だな。④の場合にしても、ドワーフや商業ギルドがテオドラム領内で何かを発見したとは考えにくい」
「やはりマーカスか……」
そうすると、詳しい情報を知るためには、マーカスに問い合わせるべきだろうか。
マナステラのドワーフたちに訊けば早いのは解っているが、小煩い詮索をしてくると思われて、マナステラへの不信と反感を募らせるような事があっては大問題ではないか。
「況して、ドワーフたちはその情報を、現状で我が国には明かしておらんのだからな」
「我らがドワーフを監視しておるなどと誤解されては一大事か」
実際にはドワーフの家の傍を通りがかったら、偶々会話が聞こえてきただけなのだが……その釈明で納得してもらえるかどうか。
「しかし……どうやってマーカスに話を持って行くのだ?」
マナステラとマーカスの間に国交はあるが、「災厄の岩窟」に関しては、マナステラは何の利権も持っていない。情報の開示を要求する根拠など無い。
「そこはそれ、ダンジョンについての情報交換とか何かで言い繕うしかあるまい。幸か不幸か、我が国も先頃『百魔の洞窟』に振り回されたからな。根拠と言えるものはあるだろう」
拙作「ぼくたちのマヨヒガ」更新しています。宜しければご笑覧下さい。




