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第二百二十六章 「岩窟」を巡る者たち 6.マーカス~ドワーフたち~(その2)

 強い魔力を浴びた鉱石などが別種の鉱物に変化する事は、(まれ)にだがある。例えば鉱脈の傍に地脈――大地の気が流れる回廊――が通っているような場所だと、地脈の発する魔力を浴びて、鉱脈ごと鉱物が変成する事がある。魔鉄などがその例であるし、その正体が未だに不明なミスリルやオリハルコン、アダマンタイトやヒヒイロカネなどの金属についても、その可能性は棄却できていない。

 そして、地脈と並んで鉱物を変成させる原因となるものが、今話題に上っているダンジョンなのである。

 これまでにも鉱山の坑道などがダンジョン化した事はあるし、その影響で鉱石が魔力を帯びて、別種の鉱石――魔鉄の場合が多い――に変質した事もある。


 なら……あの場所に鉱脈が無かったとしても、別の何かが岩窟の魔力――きっと普通ではない筈だ――を浴びて、想定外の何かに変じた可能性は捨てきれない。



「それはまぁ、そうなんじゃが……」

「未知の何かが正体不明の魔力を受けて変じたものが、()()たりの『(きん)』というのが納得できんというか……」

「うむ……」



 いっそヒヒイロカネの鉱床が確認されたというのなら、彼らもここまで悩まなかったかもしれない。なのに商業ギルドが(こだわ)っているのは飽くまでも「(きん)」。魔鉄でもミスリルでもヒヒイロカネでもないのである。



「……仮にじゃ、商業ギルドの執着が、何か根拠のあるものだとすると……」

「『災厄の岩窟』で採れたという事か?」

「実際にあそこでは、(きん)だの黄鉄鉱(バカのきん)だのがチョコチョコ採れておるようじゃしな」

「じゃが、それは飽くまで冒険者を釣る餌の範囲じゃろ? 大規模な採掘なんぞやっても、採算が取れるとは思えんが?」



 クロウに限らず、ダンジョンマスターが餌としての財宝を仕込む事は珍しくない。通常は財貨や宝物という体裁を取る事が多いが、鉱石の形で仕込まれた事例が無い訳ではない。

 とは言え、それは飽くまで〝拾いもの〟という程度で、鉱床鉱脈と言えるほどの規模は持たないのが常である。……言い換えると、個人ならいざ知らず、商業〝ギルド〟が態々(わざわざ)腰を上げるほどのものではない筈。



「幾らあの(じん)が酔狂じゃとしてもじゃ、態々(わざわざ)金鉱なんぞを仕込む理由があるまいが?」

「それはそうじゃが……あの()(じん)じゃぞ? 途方も無いペテンで商業ギルドを(たぶら)かしたかもしれんじゃろうが」

「うむ……それは……」

「……無い……とは、言えんか」



 親しくクロウの謦咳(けいがい)に接した訳ではないが、ドワーフたちとてクロウの為人(ひととなり)に無知な訳ではない。(こと)に、(かつ)てドランの(とう)()たちを前にして、〝新しい酒で(・・・・・)敵国に一太刀浴びせようという試みに、関心を抱けない酒呑みなぞ要らん〟――と言い放った件は、ドワーフ(のんべえ)たちの間にも感嘆と称賛を以て広まっていた。

 それ以降も数々の鬼手妙手を繰り出しては、テオドラムを翻弄し続けてきたクロウである。欲に(まなこ)の曇った商人どもを手玉に取るくらい朝飯前だろう……というのがドワーフたちの感想であった。



「……しかしじゃな、今ここで商人どもをおちょくって、何の利益があるんじゃ?」

「うむ……」

「それもそうじゃな……」



 多少やらかしが過ぎるところはあれど、基本クロウは無益な喧嘩は売らない(たち)だ。()してクロウと連絡会議がテオドラムを追い詰めているのは、まさにその「商業」の舞台においてなのである。商業ギルドが余程の不始末をしでかしたというのなら話は別だが、そういった事があれば連絡会議から一報入って然るべきだろう。



「そうするとじゃな、残る可能性は一つだけじゃろう。……少なくとも、(わし)には一つしか思い付かん」

「……何だと言うんじゃ?」

「うむ……」



 そのドワーフは(しば)(くち)()もっていたが、やがて意を決したように口を開いた。



「つまりじゃな……あの()(じん)ですら想定外の事態が……意図せざる変化が起きたのではないかと思うんじゃ」

「想定外の事態じゃと?」

「うむ」



 言い出しっぺのドワーフは重々しく(うなず)くと、



「あの()(じん)は稀代の精霊術師殿にして……そのぅ……アレ(ダンジョンマスター)かもしれんが、鉱物についてはそこまで詳しくない……少なくとも、この辺りの鉱物には不案内ではないかと思うんじゃ」

「……じゃが……ほれ、あの……(硝石)の事を教えてくれたのは、あの()(じん)じゃぞ?」



 ビールの冷却に硝石を用いるという事は秘中の秘であると釘を刺されているせいか、その単語を言う時だけは小声になったが、挙げられた反論は妥当なものであった。

 しかし――



「それはそうなんじゃが、逆に言えばそれ以外の話は出て来なんだじゃろう? 酒だの菓子だのはあれだけの話が出ておりながら――じゃ」

「うむ……」

「確かに、そう言われると……」

「だとすれば――じゃ、鉱物などが魔力で変化するという事は、あの()(じん)の意識の外にあったかもしれんじゃろう?」

「「「「「う~む……」」」」」



 現時点では飽くまで机上の仮説に過ぎないが、とは言え既存の鉱物か何かが、ダンジョンの魔力を浴びて変質した可能性は無視できない。そうして出来たものが金というのは()に落ちないが、



「……仮令(たとえ)それが(きん)でないとしても、何か有用なものをテオドラムが見つけたというなら……」

「ちと業腹(ごうはら)じゃろ?」

「うむ」



 ドワーフたちは(しば)し考え込んでいたが、



「……可能性の話に過ぎんとは言っても……」

「うむ。黙っておくのも(まず)いじゃろうな」

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