挿 話 ヴァザーリの混乱
第二次ヴァザーリ戦の波紋を挿話の形で。
『クロウよ、お主のせいで外では大変な事になっておるようじゃぞ』
『藪から棒に何の事だ?』
『精霊樹様、マスターがなさった事は、多々ありますから、それだけでは、何の事か判りませんけど?』
うん、キーンよ、その言い草はどうかと思うんだけどな、俺は。
『一番最近やらかしたこと、すなわちヴァザーリの一件じゃ』
『うん? ヤルタ教への不信感が増したと言うのなら、想定内のことだぞ?』
『ところがそれだけでは無うてのう……』
爺さまが話してくれた内容は、俺にとってもいささか意外な話だった。
『精霊たちの噂話によるとじゃな、ヴァザーリでは件のスケルトンドラゴンの使役主を騙る……というのか、聞いた事もない神の名を出して、その神こそがスケルトンドラゴンの主じゃと言い出す者が後を絶たんそうじゃ』
インチキ宗教が乱立しているってことか?
『他にも、この世の終わりが来るがこのお札を買った者だけは救われる、とか言うてインチキ札を売りつけようとする者やら、どうせもうすぐ死ぬのなら今のうちに好きな事をやっておくと言い放って乱暴狼藉を働く者やら、不安に乗じて信者を増やそうとする生臭坊主やら、町を捨てて引っ越そうとする者やら、逆にこれ幸いとヴァザーリの土地などを買い漁る強突張りやら、とにかく百鬼夜行の有様じゃそうな』
うわぁ……。
『インチキ宗教などについては領主軍の他に王国軍まで出張って来て摘発しておるそうじゃがのう。面白い事に、ヤルタ教もこれらのインチキ宗教の摘発に乗り出しておる様子じゃ』
『ヤルタ教が?』
『うむ。何でもヤルタ教の坊主どもによると、この世界は主神ヤルタとそれに刃向かう悪神バトラの対立と抗争の場であって、いずれは主神ヤルタが勝利を得るのじゃそうな。面白い事に、悪神バトラも神は神であって、そこらの魔物とは格が違うので、あのような神々しいスケルトンドラゴンを生み出せたのじゃと言うておる』
ほほう、ゾ○アスター教みたいな教義を考え出したか。やるもんだな。
『で、信者はその説明に納得しているのか?』
『精霊たちもそこまで知ってはおらんようじゃ。というか、ヴァザーリの町自体がさっき言うたような有様でな、ヤルタ教の坊主どもの説得も騒ぎの中に埋もれてしもうて、果たしてどれだけの民が聞いておるやら』
『町全体がそんな騒ぎなのか? だとしたら他所との交易はどうなっている?』
『そういった騒ぎじゃから、まともな商人はヴァザーリへの立ち入りを控えておるようじゃ。領内の他の町ではヴァザーリほどの混乱はないようじゃが、一方で領主軍や王国軍の目が届かぬために、ぼとぼちイカサマ師どもが目を付け始めたようじゃな……』
もう一話投稿します。




