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第二百二十六章 「岩窟」を巡る者たち 5.マーカス~ドワーフたち~(その1)

 ありもしない〝(きん)〟を巡ってテオドラム王国・マーカス王国・商業ギルドの三者が、喜劇的に頓珍漢(とんちんかん)(はら)の探り合いを演じている脇で、その動きに気付いた者がいた。当事国の一方であるマーカス、そこに居を構えるドワーフたちであった。



「商業ギルドがおかしな動きをしておるとな?」

「うむ。連中は隠しておるつもりのようじゃがのう」



 商業ギルドの面々とて子供ではない。と言うか、ただでさえ海千山千の商人たちの集まりであるからして、情報の秘匿には気を遣っていた……筈だ。

 なのに、こうもあっさりと――情報戦は不得手な筈の――ドワーフたちに内情が筒抜けになっているのはなぜなのか。

 (いぶか)る向きもあるであろうが……要は商業ギルドのメンバーは飽くまで商人であり、鉱物の専門家ではないという事であった。専門家でない以上、専門的な知識は専門家に訊ねるしか無い訳で、そういった流れでドワーフたちに情報が流れていったという次第である。()わば必然的な帰結であると言えよう。



「で? おかしいというのはどういう訳じゃ?」

「それがのぉ……金鉱脈の分布じゃの品位じゃのについて探っておるようじゃ。()りにも()って、あの『災厄の岩窟』近辺での」



 この話を聞いたドワーフたちは、揃って我が耳を疑った。



「何じゃ? あの辺りにゃ金鉱脈なぞ、ありはせんじゃろうが?」

「そういう事になっておったが……ほれ、あの『岩窟』が湧いて出た事で、何か変化があったのではないかとな」

「変化じゃと?」

「そりゃあ……何も無いという方がおかしいじゃろうが……しかしのぉ……?」

「うむ、ダンジョンに金鉱脈なぞできんじゃろう」

「それはそうなんじゃが……何しろほれ、あの『災厄の岩窟』じゃからのぉ……」

「うむ……」



 悪名高い「災厄の岩窟」がでんと陣取っている国境線付近。そこには間違い無く金鉱脈など存在していなかった。

 しかし、そこに巨大なダンジョンが現れたとなれば、その余波を受けて鉱脈の一つ二つ誕生したかもしれないではないか、()して(くだん)のダンジョンは、銅に変じた屍体だの黄金のゴーレムだのを輩出した、その名も高い「災厄の岩窟」なのだ。

 ……というのが商業ギルドの言い分なのであろうが、鉱物の専門家として自他共に認めるドワーフたちに言わせれば、



(かつ)てダンジョン内で大規模な鉱床が発見された例なぞ無いわい」

「うむ。ダンジョンマスターが囮として財貨を仕込む事はあってもな」



 (そもそも)ダンジョンというのは、ダンジョンコアが改変した空間と、その中に居住するダンジョンモンスターが創り上げた共生系である。コアによる環境改変が()されているとは言っても、さすがに鉱脈を生み出すような非効率な真似はしない。

 長年に(わた)って存在しているダンジョンの場合、ごく稀にモンスターの溜め糞などが燐鉱石に変じている事があるそうだが、モンスターの排出物も大抵はダンジョンが吸収してしまうため、そういったケースは本当に例外的だ。(いわ)んや金鉱脈においてをや――である。

 そういった事情を知っているドワーフたちにしてみれば、商業ギルドの夢みる薔薇(ばら)色・金色のお宝など笑止千万なのだが……欲に目の曇った商業ギルドの面々は、万一という希望願望欲望を捨てる事ができなかったようだ。


 商業ギルドのそんな妄想を酒の肴に、ドワーフたちは盃を傾けて談笑……して終わる筈であった。……普通なら。



「じゃがのぉ……何せあの()(じん)のダンジョンじゃからのぉ……」



 クロウが自らダンジョンマスター――今はダンジョンロード――であると認めた事は無いが、「連絡会議」の面々は、薄々そうではないかと勘付いていた。クロウとダンジョンが無関係だとすると、〝偉大なる精霊術師〟クロウが現れたのと時を同じくして、クロウと同様にテオドラムに反感を抱くダンジョンマスターが、クロウとは別個に現れた事になる。幾ら何でも出来過ぎた話ではないか。クロウ本人がダンジョンマスターなのかどうかは判らぬが、少なくとも何らかの繋がりがあるのは間違いあるまい……と察していた。(もっと)も、クロウがそれを認めない以上、ノンヒュームたちも追及する気などさらさら無いのであるが。

 なお余談であるが、シュレクの「ダンジョン村」の村人たちは、「災厄の岩窟」がクロウの仕業である事を疑ってもいない。ただしその見解を不用意に漏らして、彼らの敬愛する「ダンジョン様」に迷惑をかけるような真似もしていない。


 ともあれ――そんなクロウの戦果というか前科については、そのやらかしぶりを直接目にした事はないにせよ、マーカスのドワーフたちも人伝(ひとづて)(うわさ)(づて)に聞いている。()の「災厄の岩窟」の曲者ぶりについては言わずもがな。

 数多(あまた)あるそれらの噂話の、ほんの半分でも事実だとするなら……



「……あのダンジョンの中に何ができておるのか……予断は禁物という訳じゃな……」

「うむ。何しろあれだけのダンジョンじゃ。中でどんな変成作用が起きておるやらおらぬやら……過去の知識だけで判断するのは軽率じゃろう」

「鉱物が魔力の作用で変成する事はあるからのぉ……」

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