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第二百二十六章 「岩窟」を巡る者たち 3.愚か者たちの〝金〟~マーカスとテオドラム~

 さて、皮肉にも湖沼鉄の存在には少しも気付いていないテオドラムの方はと言えば……



「一体全体マーカスの連中は、ダンジョンで何を採掘しているのだ?」



 ――どこかの国(マーカス)と同じような疑問に囚われていた。

 ただし、そこから先が少し違っていて、



「まさかとは思うが……(きん)なのか?」



 格言にも〝疑心暗鬼を生ず〟というが、自分たちが金鉱探しに奔走しているという事実が、〝マーカスでも同じような事をしているのではないか?〟という――根拠の無い――疑念を生み出していた。

 無論の事マーカスは、金鉱脈の詮索(せんさく)穿鑿(せんさく)も進めていない。進めていないだけでなく、そんな事は夢にも考えていない。

 金鉱に対するこの温度差はどこに原因があるのかと言うと、これまたクロウにその遠因があった。



・・・・・・・・



 (そもそも)テオドラムが()くも(きん)への固執を抱いた切っ掛けは、「災厄の岩窟」で金鉱石の存在が確認された事であるが、それに燃料を投下したのが、テオドラム新金貨の贋金騒ぎである。

 折角鋳造した新金貨が、品質に疑いを持たれて受け取ってもらえなかった事で、テオドラムが保有する金の在庫が危険水準にまで落ち込んだ。その危機的状況を打開するために、金または外貨の確保が至上命題となったところで、金が採れる――かもしれない――手近のダンジョンが注目された訳である。

 しかもそこへ第二次贋金騒ぎが勃発し、テオドラムが国を挙げて「贋金」――ただし品位の点では本物と同等以上――を造っているのではないかという、うっすらとした疑惑が持ち上がった事で、テオドラムの目は(いや)が上にも「災厄の岩窟」へ向く事になる。……その内部に金鉱を持つのではないかと目されているダンジョンに。


 ここで更に事態を混乱させたのが、テオドラムが派遣した金鉱石調査班第三班が持ち帰った、金鉱石と古代金貨である。どちらもクロウの仕込みなのであるが、厄介な事にその成分は両者で異なっており、しかも(かつ)てテオドラムが鋳造していた金貨や、先日ヴォルダバンで発見された〝贋の〟マナステラ金貨のそれとは、明らかに違っていたのである。

 第二次贋金騒動の黒幕が「災厄の岩窟」だという証拠は得られなかったものの、今度は「岩窟」内に複数の「(きん)」の供給源が存在する可能性が浮上してくる。(きん)と外貨の在庫払底に悩むテオドラムにとっては、看過できない情報だ。


 ――こんな事情が背景にあるとなれば、テオドラム兵士の鼻息が荒くなるのもそりゃ道理である。



・・・・・・・・



 (ひるがえ)ってマーカスの方はどうなのかというと……(いささ)か事情が違っていた。


 改めて説明する必要も無いであろうが、「災厄の岩窟」はダンジョンである。

 テオドラムに反感を抱くクロウが、そのテオドラムへの嫌がらせのためだけに創り上げたダンジョンである。

 ゆえに、「岩窟」内に出現するものも、基本的にはクロウがテオドラムを(たぶら)かすために用意したものであり……それはつまり、クロウが隔意を抱いていないマーカス側には、火種となりそうな厄介物は出現しないという事なのであった。


 そういった裏事情から「岩窟」のマーカス側には、金の鉱脈も黄鉄鉱(おろかもののきん)の鉱脈もそれほど配置されていなかった。それに加えマーカスの冒険者は、テオドラムのそれに較べるとまともな者が多かった事もあって、クロウも冒険者(バカ)揶揄(からか)うための「古代金貨(笑)」などは仕込まなかった。

 (ひっ)(きょう)、テオドラム側のようなゴールド・ラッシュ(笑)も発生しなかったため、テオドラム兵のように鼻息を荒くしてダンジョンに吶喊(とっかん)して行くような光景は見られなかったし、乱暴な掘削が出水事故を引き起こすような事も無かったのであった。


 ――つまり、これがテオドラムとマーカスで、金鉱について温度差が生じている理由なのであった。


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