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第二百二十六章 「岩窟」を巡る者たち 2.マーカス(その2)

「テオドラムは何を掘っているのだ?」



 鶴嘴(つるはし)担いでダンジョン内に出撃して行く姿を見れば、何かの採掘に従事しているのは疑う余地が無い。問題は何を採掘しているのかである。



「手懸かりが何も無しというのではな」

「いや……そうとばかりも言えんかもしれん。水位の低下があった」

「水位?」

「そう言えば……これまで何度か河川や井戸の水位が乱れた事があったな」

「テオドラムは何らかの利水工事を行なっていると?」



 マーカスやテオドラムにおける農業用水・生活用水は、基本的には河川水に頼る部分が大きい。その河川の下流部に位置するテオドラムは、上流に位置するマーカスに対して、水利という面で常に主導権を握られている。少なくともテオドラムの上層部にとっては、その思いは強迫観念に近いものとなっている。

 そんなテオドラムが、河川に依存しない水源を――現時点では可能性に過ぎないとしても――見つけたのなら、その開発にしゃかりきになるのは理解できる。……仮令(たとえ)それがダンジョンの地下水であったとしても。


 幸か不幸かマーカスはそこまで水資源に不安を抱えておらず、また「災厄の岩窟(ダンジョン)」のマーカス側ではテオドラムのように、不意の水難に遭遇するという事は無かった事もあって、地下水という水資源の可能性に気付くのか遅れていた。テオドラムが地下水脈を発見したらしい事には気付いていたが、テオドラムがそこまで地下水を重視しているとは思わなかったのである。



「……確かにテオドラム(やつら)が地下水の開発に成功したのなら、我々の手札を一枚奪う事になる。地下の水源に拘泥する理由も解るのだが……」

「あぁ。その点を考慮してもなお、現在テオドラムが熱中しているのが、地下水脈だとは考えられん」



 考えられない理由は簡単で、彼らが毎回鶴嘴(つるはし)担いで出陣して行くからである。地下水の汲み上げににこれほど不向きな道具も無かろうではないか。



「テオドラムが何かを掘って(・・・)いるのは疑い無いとして……一体何を掘っているのか」

「泥炭という可能性も考えたが……少し違うようだな」



 テオドラムが採掘を始めた時点で、マーカスも泥炭について調べていた。だからそれが、低質ながらも燃料として使える事は知っていたし、具体的にどういうものなのかも理解している。泥炭の採掘には、鶴嘴(つるはし)よりもシャベルの方が向いている事も。

 実際、泥炭の採掘に携わっているらしきテオドラム兵を目撃した事もあるが、彼らは一様にシャベルを担いでいた。


 となると……鶴嘴(つるはし)担いでダンジョン内に出撃していく兵士の目的は、水と泥炭以外の何かという事になる。



「てっきり湖沼鉄だと思っていたが……今に至るもテオドラム兵の一人の目撃も無いという事は……」

「うむ。湖沼鉄ではないのかもしれぬ」

「これでは……こちらも動きがとれん」



 マーカス首脳陣の頭を悩ませているのは、冒頭でも話したように、「災厄の岩窟」に張り付けざるを得なくなっている兵力の事である。動員兵力にそこまで余裕が無いマーカスとしては、できる事なら不要不急の派遣兵力は縮小しておきたいのが本音である。

 テオドラムの動きが低調なら、それを理由に兵を引き上げる事も可能なのだが……腹の立つ事に、テオドラムの連中は妙に元気に――鶴嘴(つるはし)担いで――出撃して行く。どこから見ても〝活動が低調〟な部隊ではない。これでは兵力の引き上げなど、到底言い出せる訳が無い。


 ――更に厄介な事に、ここのダンジョンマスターが何を考えているのかが判らない。


 どうやらテオドラムとは対立しているようだが……だからと言って、ダンジョンマスターがマーカスに好意的だと決めてかかる事はできない。である以上、警戒のために相応の兵力を張り付けておく事は必要になる。



「面倒な状況になったものだ……」



 (とばっち)りを被った形のマーカス。彼らの悩みは尽きないのであった。

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