第二百二十五章 アバン探訪 14.雅びな火種(その3)
再び場面変わってこちらは――何がどうなったのか判らぬままに「迷い家」に迷い込み、得体の知れない、しかし何やら有り難そうな工芸品を手にしたダールとクルシャンクである。折り鶴の入った箱を手に取った時点で再び濃い霧に巻かれる事になり、改めてその霧が晴れたかと思えば……
「……ちゃんと戻って来たみたいだな」
「……だな。野営の準備をしてた場所だぜ」
妙な狭間に迷い込む前に整えていた野営の支度が、そのままちゃんと残っている。置いていた荷物も無事なようだ。迷い込む前と較べて、何一つ変わったところは……
「……いや、そろそろ焚き火が消えそうになっているな」
「ま、何だかんだで時間を食ったからな。別におかしなところは……どうかしたか?」
妙な表情で黙りこくっている相方の様子を見て、どうかしたのかと訝るクルシャンク。こいつはさっきもおかしな事を言っていたし、ここでも何か気付いたのか?
「あぁいや……こっちではちゃんと時間が経っていたんだなと……そう思ってな」
「……あ?」
またぞろおかしな事を言い出したと妙な目付きのクルシャンクに、苦笑を浮かべたダールが説明を始めたのだが……
「いやな。この手の異界訪問の話だと、迷い込んでいるうちに下界では大幅に時間が経過していた――とか、逆に異界で長の時間を過ごしたにも拘わらず、下界ではほとんど時間が経過していなかった――とかの展開がお約束なんだが……今回はそうじゃなかったんだと思ってな」
「あぁ?」
……単にクルシャンクが頭を抱えるだけに終わったようだ。
「冗談じゃねぇぜ……『迷い家』ってなぁそんなに物騒なもんなのかよ……」
「いや、噂でもそういう話は出て来なかったようだし、まぁ大丈夫だろうとは思っていたが……実際に確かめた訳じゃなかったからな」
「……んで、今回実地に確かめられたんで、ご機嫌って訳かよ……」
「そういうつもりではなかったんだが……こういう不可思議な出来事というのは、何かこう……ワクワクしないか?」
げんなりした様子のクルシャンクを見て、ダールはその心中を吐露したのであるが、
「俺ぁもちっとこぅ……白黒ハッキリしてる方が好い」
クルシャンクからの共感は得られなかったようだ。
「それじゃ、もう少し地に足の着いた……現実的な話をするか。今回この工芸品を貰った事で、俺たちへの指示はどう変わると思う?」
「あぁ? 何か変更でもあるってのか?」
「能く解らん場所で、能く解らん工芸品を貰ったんだぞ? 一刻も早く持ち帰れ……なんて話になるとは思わないか?」
「お♪ そいつぁ吉左右じゃねぇか」
まだ本国に連絡も取っていないというのに、早くも帰る気満々のクルシャンク。苦笑しつつそれを宥めつつ、いざ魔導通信機で連絡を――としかけたところで、
「――ちょいと待った。どうやらお客さんみてぇだぜ?」
新たな登場人物がこの場に参入したのである。




