第二百二十五章 アバン探訪 13.雅びな火種(その2)
『主様、あれって、アルミ箔ってやつですか?』
『お、察しが良いなウィン。だが惜しい。工作用のアルミ板だな』
ただの折り紙では曲が無いとでも思ったのか、クロウは小学校の工作などで使う板金工作用のアルミ板、それも折り紙に使えるような薄いものをどこからか入手してきて、それで鶴を折っていたのである。しかも念の入った事に、ツートンカラー版の鶴を折るために、態々表裏で色の異なるものを買い求めてくるという凝りようであった。
『……クロウよ、それはつまり、あの「折り鶴」とやらは……?』
『……異世界の素材でできている――って事? クロウ』
そんな面倒な代物を、何で態々イラストリアの密偵に渡したのか。胸倉を掴んで難詰しそうな勢いの爺さまとシャノアにニヤリと笑い、
『安心しろ。確かに地球から持ち込んだものだが、アルミ自体はこっちの世界にも存在する。ちゃんと【鑑定】スキルを使って確かめた』
『……本当でしょうね?』
『あぁ。こっちでは「軽銀」というらしいな』
『……軽銀?』
『お待ち下さい。それは――』
『うん? どうかしたか?』
「軽銀」という名前に反応したダバルとネスに、不思議そうな声で問いかけるクロウ。軽銀はこちらの世界にもある筈だろう。ちゃんと【鑑定】にそう表示されていたぞ?
『いえ……確かに元素としては存在していますが……』
『その……精錬なり何なりして、素材という形に加工したという話は聞いた事が……』
『……無い……のか?』
「元素」として存在しているからと言って、それが「素材」の形で存在しているとは限らない。クロウ痛恨の思い込みであった。
況して、一応は金属であるアルミを、薄いが丈夫な紙状に加工するなどというのは、こちらの世界の技術水準を遙かに凌駕した行為である。
『……まぁ……どこかの何者かが素材化に成功した……と、思ってくれるかもしれませんし……』
『異世界から持ち込んだ――などというよりは、現実味のある想定じゃろうな』
『……あれ? でもマスター、異世界から持ち込んだものって、【鑑定】結果にそう表示されるんじゃなかったですか?』
キーンの言葉を耳にして硬直した一同が、揃ってギ・ギ・ギという感じにクロウの方へ頭を巡らせるが、
『ふふん、そこに抜かりは無い。実は先日、ダンジョンマジックが進化してな』
『……ダンジョン……マジックが……』
『進化しちゃったんですかぁ?』
幾許かの警戒を滲ませながら、眷属たちがクロウにその仔細を確認したところ、
『……【鑑定】の……結果を……改竄……できるのですか……』
『おう。一度ダンジョン化してやる必要はあるんだがな。いつの間にかダンジョンマジックに、「ダンジョン属性の編集」という項目が追加されててな』
『ははぁ……』
『選択するとエディター画面が起動するから、これで属性を編集して、異世界だの何だのという記述を全部消しちまえばいいんだ。その後でダンジョン化を解除してやれば、あら不思議、物騒な記述なんか何も無い、すっきりした折り鶴が残るだけだ』
『ほほぉ……』
話だけ聞くと途轍も無く大それた事のように思えるが、別に世界の理に干渉するようなものではない。局所的に鑑定を阻害する効果を付与しているだけだ。高い【鑑定】スキルを持つ者は往々にして他者からの【鑑定】を弾いたりするが、要はそれと同じである。
――とは言うものの……折り鶴をダンジョン化するという、一体誰得なのかと言いたくなるような行為についてはスルーするとしても、【鑑定】スキルを欺くというだけでもう大概な所業である。本当にそんな事ができるのかという気もするが、何よりクロウは自信満々であるし、これまでのクロウの前科に鑑みれば、そのくらいできてもおかしくない気もする。
……なので、【鑑定】スキルを持つネスやダバルも、ついそのままにスルーしてしまった。まぁ尤も、折り鶴の現物は既にダールとクルシャンクの手にあり、今更【鑑定】をかける事はできないという事情もあったのだが……手抜かりと言えば手抜かりであった。




