第二百二十五章 アバン探訪 12.雅びな火種(その1)
不用意に箱の蓋を開けようとすると、不意に中身が飛び出して、不幸にも箱の前に立っていた者をパックリ……などというのが小説では不動のパターンなのかもしれないが、この場合はそんな陳腐な展開にはならず、
「……何だ、こりゃあ?」
箱の中身を見て首を傾げている同僚の姿を見て、どうやら危険は無いらしいと判断したのか、後方に待避していた薄情者も箱を覗き込み……
「……何だ、これは?」
同じような感想を漏らすに至った。
二人が揃って首を傾げているのも道理。箱の中に鎮座しているのは――
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『……折り鶴……ですか……?』
『あぁ。イラストリアに対して友好的なメッセージとなり得ると同時に、メッセージ以上の価値は無く、しかも異国風という条件を兼ね備えている。悪くない選択だろう?』
『はぁ……』
どうだ――と得意げなクロウであるが……成る程、確かにその点だけを見るならば、これは中々に的を射た選択であろう。しかし……
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「こりゃあ……鳥の置物か?」
「……みたいだな。四種類、それぞれ違った鳥のようだが。何かの素材を……これは、折って作ってあるのか?」
「尾羽が派手に広がってんのやら……こっちゃあ魔物か? 頭と尻尾が二つずつあるみてぇだが……いや? 二羽の鳥が肩を並べてんのか?」
ただの折り鶴では芸が無いとでも思ったのか、クロウは無駄に器用な部分を発揮して、基本形の他に更に三種類もの鶴を折っていた。
すなわち、基本形の鶴より尾羽の部分が太く、翼に扇のような折り目を付けた「折羽鶴」。尾羽の部分がさながら孔雀のように広がった形の「祝い鶴」。更には、切れ目を入れた長方形の紙で折る事によって、二羽の鶴が羽根の片方を共有するような形に繋がった「妹背山」の三種類である。
――それだけではない。
「二色に塗り分けてあんのか? こりゃあ。随分と手が込んでんな」
「いや……刷毛目が無いし、後から塗り分けたんじゃないようだぞ? ……二色別々の材料で作ったものを組み合わせたのか?」
妙なところで凝り性なクロウは、態々「妹背山」を折る時に一手間かけて、左右の鶴それぞれが表裏異なる色になるように工夫していた。素から本体と尾羽が異なる色になる「祝い鶴」と併せて、この二体はツートンカラーになっていたのであった。
これだけでも大概な話であるが、クロウが作った折り鶴には、それ以上に物議を醸すであろう特徴があった。
「しかし……これはどうやって作って……いや、それよりも何でできているんだ? ……金属……なのか?」
「さぁ……どれもこれも妙にピカピカしちゃあいるが……赤く光る金属なんざぁ、俺は見た事も聞いた事も無ぇ。……こっちは……金……なのか?」
「さぁな。……おぃクルシャンク、お前、冒険者あがりだろう。【鑑定】スキルくらい持ってないのか?」
「こきゃあがれ。んな上等なスキル持ってたら、こんなしがねぇ兵隊稼業なんかやってるもんか」
「まぁ……それもそうか……」




