第二百二十五章 アバン探訪 10.迷い家問答(その3)
ぶっ飛んだ説明を聞かされたクルシャンクは、あんぐりと口を開けて驚愕の体であったが、それは会話を盗聴しているクロウたちも同様であった。
『おぉ……こいつはまた、途方も無い事を言い出したな……』
先にSF作家の素養ありと評したのは自分だったが、案外その評価も的外れではなかったかもしれぬ。この男に好きなように語らせると、話の展開が面白くなりそうだが……
(……それでこっちに迸りが来ても困るしな……)
――などと勝手な事を考えていたクロウであったが、眷属たちの声に思索を破られる事になる。
『実際のところ、どうなんですか? マスター』
『さて……俺も専門家じゃないからなぁ……』
暫し考え込んでいたクロウであったが、二十一世紀日本の物書きのプライドに賭けても何か言わねばならないと感じたらしく、
『そうだな……時間と空間が表裏一体という考えに立つなら、異なる時間線に属するものが同一の空間座標上に存在できるのかというのが、まず疑問だな。それと、見る事のできないのが人間だけで、建物や物品は見る事も触れる事もできるというのが、些かご都合主義的にも思えるな』
『実際にドロップ品を持ち帰ってますもんね』
『ねぇクロウ、あっちでもその点を突っ込まれてるみたいよ?』
シャノアの解説を耳にしたクロウたちが、改めて会話に注意を向ける。さて――どういう反論が出て来るか。
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「その辺の事情まで俺には解らん……と、突っぱねても納得しないんだろうな?」
「――ったりめぇだ。好き勝手な事をほざきやがって。与太噺の落ちぐらい、しっかり付けろってんだ」
「だったらもう少し現実的な説明もあるぞ? その分、身も蓋も無いんだが」
「……話してみやがれ」
「俺たちより前にここを利用した商人たちが掃除した――というのはどうだ? ここに寝泊まりした者が何人かいたとしたら、埃くらい払っていてもおかしくはないだろう?」
「あぁ……その可能性があったか……」
・・・・・・・・
『……身も蓋も無い形ではあるが、一応筋の通った説明ではあるな。……いや、俺たちの立場的には、歓迎すべき結論なんだろうが』
不可思議な黒幕の存在を持ち出す事無く現状を説明してくれたのだから、件の黒幕たるクロウにとっても歓迎すべき結果であるには違い無い。ただ――
『問題は……イラストリアの……上層部が……どう……受け取るかという……事なのでは……』
『そうですよねぇ……』
態々「谺の迷宮」の後に「間の幻郷」を訪れるように仕向けたのだから、何らかの予断を持っているのは間違い無い。まぁ、単に同じヴォルダバン国内にあって近いから――という暢気な理由からという可能性も無くはないが、
『態々「谺の迷宮」にまで乗り込んで来たぐらいだからな。そんな太平楽な動機からじゃないだろう』
『ですよねぇ……』
ちなみに、ダールとクルシャンクの二人がシェイカー討伐隊に参加したのは全くの成り行きからで、イラストリア上層部の与り知らぬところであったのだが、そんな裏事情まではクロウにも判らない。ゆえにクロウとしても、今の段階ではイラストリアに対して警戒を解く訳にはゆかない――という事になる。
『まぁ、イラストリアに対して友好的なメッセージを届ける必要もあるし、お誂え向きの説明を付けてくれたご褒美が必要だろう』
『あ、ドロップ品ですね?』
『そう言えば、何やら事前に大見得を切っておったのぅ』
『一体何を用意したのよ? クロウ』




