第二百二十五章 アバン探訪 9.迷い家問答(その2)
『……成る程。廃村という形態を取っていると、ダンジョンだとは思われん訳か』
『参考になりますね、マスター』
感心していたクロウであったが、そこへクルシャンクの〝もしもこれがダンジョンだとすると、造ったやつぁ努力の方向を間違ってる〟という発言が届く。シャノアがチロリとこちらを見たような気がするが、そこは二十一世紀日本人のスルースキルで受け流す。
それよりクロウとしては、先ほどのクルシャンクの発言が少し気にかかる。学生の頃盛んにやったTRPGでは、古代遺跡のダンジョンという設定も能くあったと記憶しているが?
『丁度その話をするところのようじゃぞ、クロウよ』
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「……いや、確かに古代遺跡のダンジョンってのも、あるっちゃあるんだけどよ。そういうなぁ大抵は、窖みてぇな場所なのよ」
そんな事を話しながら、二人は廃屋内へと探索を進めていた。
「つまり、洞窟と大した違いは無い訳か」
「あぁ。あとな、塔の形をしたダンジョンってのもあったそうだが……ありゃ、魔導師か何かの住処がダンジョン化したもんだそうだから、ちっとばかり話が違うわな」
「……どう違うんだ?」
「つまりだな……ダンジョンってなぁ大抵は、魔素だか魔力だかが濃集した場所に発生するんだ。で、魔素だか魔力だかが濃集するって事ぁ、そいつらが流出したり散逸したりしねぇ条件が必要な訳だ」
「……成る程。それで洞窟や古代遺跡か」
「あぁ。ここみてぇな開けた場所で、しかも隙間風が入って来るような風通しの良い荒ら家じゃ、抑魔素が滞留できる訳が無ぇ」
――〝開けた場所〟に見えても、実際にはここは廃村の地下にあるダンジョン階層である。クロウの魔力で〝開けた場所〟に擬装しているだけなのだが……クルシャンクにもそこまでの事は解らない。
ゆえに――
「結論として、ダンジョンができるなぁ無理って事になる」
羽目板の隙間から吹き込んで来た冷たい風に顔を顰めながら、クルシャンクはそう卓説を結んだ。……いや、結ぼうとした。
「……と、言いてぇところなんだが……」
「どうかしたのか?」
訝しげに訊き返すダールに、クルシャンクが答えて言うのには、
「――埃が無ぇ。ここまで放ったらかしの空き家なら、もっと埃が積もってなきゃおかしい」
「……隙間風で吹き散らされたんじゃないのか?」
「一ヵ所二ヵ所ならそういった事もあるだろうがよ、全体的に埃が積もってねぇんだ。別の理由があると考えるべきじゃねぇのか?」
しまった、そこまでは考えてなかった――と、顔を顰めるクロウたち。
「何の臭いもしねぇのは、長い時間無人だったせいかもしれねぇが……どうも作り物の臭いがプンプンしやがる。そのくせヤバそうな気配はしねぇときてる。……何つーか、万事が交喙の嘴と食い違ってやがるのが気に入らねぇ」
不機嫌そうなクルシャンクは、その憤懣をダールにぶつける事にしたらしい。世間ではこういうのを〝八つ当たり〟と言う。
「よぉ、お前の時間移動説じゃ、埃の件をどう説明するんだ?」
「……そうだな……例えばだが……この村の住人がこの家を普通に使っているとしたら、埃が無いのもおかしくはないんじゃないか?」
「……あ?」
こいつは何を言ってるんだと言いたげなクルシャンクに向かって、ダールは痛烈な逆捻じを喰らわせる。
「我々とこの村の住人と、それぞれ属している時間が異なるせいで、お互い相手を認識する事ができない――というのはどうだ?」




