第二百二十五章 アバン探訪 6.定番の珍客
その日、アバンの廃村では――
『……あの連中……こんなとこにまでしゃしゃり出て来たのか……』
『こ-ゆーの、腐れ縁っていうんですか? マスター』
サガンの冒険者による襲撃を機に強化された地上部の監視網が、興味深げに廃村を探索するダールとクルシャンクの姿を鮮明に捉えていた。
『あいつら、「谺の迷宮」にも、やって来てましたよね?』
『どういうつもりなのかしらね、クロウ』
狙い澄ましたようなエンカウント率に、眷属たちも訝しげであるが、クロウの答は素っ気無いものだった。ここまでくると偶然という言葉ではすませられず、偶然でないならそれは意図的なものという事ではないか。
『イラストリアは「シェイカー」と「間の幻郷」に、共に不審を抱いてるって事だ。まぁ、手っ取り早いと言えば手っ取り早いとも言えるんだが』
『……どういう事? クロウ』
これまでのクロウの業績に鑑みたのか、問いかけるシャノアの口調にも警戒の色が混じっている。
『何、どうせイラストリアにはこっちの事はバレてるんだし、いっそメッセンジャーとして使う手もあるかと思ってな』
嘗てイラストリアは、この二人に旧「モローのダンジョン」跡地で小芝居を演じさせ、王国の意図をクロウに伝えようとした事がある。その事を考えれば、クロウの発想もそうおかしなものではない。
確かにおかしなものではないが――
『……何を伝えようというんじゃ?』
『問題はそれだ。今のところ、イラストリアに伝えるべき喫緊の案件というものが思い当たらん』
『……本末転倒じゃないのよ、それ』
『否定できんな。それに、問題になりそうな点はもう一つある』
『もう一つ?』
『あぁ。イラストリアの上層部が、こいつらにどこまで明かしているのか……そこのところが今一つ読めん』
むっつりとしたクロウの台詞を聞いて、あぁ成る程――と合点する一同。あの二人組に、「間の幻郷」がダンジョンだと勘付かせていいものか。確かにそこのところが読めないと、こちらからアクションを起こすのは難しそうだ。
『向こうの……出方を……見てから……対応するしか……無いのでは?』
『まぁ、そういう事になるだろうな』
――と、そんな感じに話が纏まりそうになったところで、
『……クロウよ、確認しておくが、あやつらを招き入れるのは既定の方針なのじゃな?』
爺さまからの確認が入った。
『そのつもりだが……何か拙かったか?』
何となく引き込むのを前提にして話していたが、その点はまだ意見の擦り合わせを終えていなかった。爺さまからの指摘を受けて今更ながらそれに気付いたクロウが、改めて一同に確認を取るが……眷属たちも何となく引き込むつもりでいたらしく、誰一人としてそこを掘り下げていなかった事が明らかになる。一同改めて考え込むが、
『……強いて言えば、ドロップ品をどうするかというのが問題ではないかと』
『あぁ……新規ドロップ品の用意が整うまでは、ドロップの間隔を空けるつもりでいたから……』
『あの連中も、何もこのタイミングでやって来なくてもねぇ……』
『間が悪ぃですぅ』
ダールとクルシャンクが筋違いの非難を受ける事になったが、
『何、あの連中にそこまで値打ちものを渡す必要は無いだろう。それなら当てはある』
――と、何やら自信有り気に言い放つクロウなのであった。




