表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1142/1812

第二百二十五章 アバン探訪 4.サガンでの幕間劇(その2)【地図あり】

「まぁ(もっと)も、両国間の取引の総量でみると、別に増えも減りもしていないそうなんだが」

「割を喰ったのはカラニガンだけって事か?」

「いや、カラニガンでもテオドラムとの取引に傾注していた商人はごく一部らしい。あの町は元々、サガンとイルズの中継地としての役割が大きかったからな」

貧乏籤(びんぼうくじ)を引いたのは、その一部だけって事かよ」

「必ずしもそういう訳じゃないらしい。この間の討伐戦の費用は、それ以外の商人たちも負担していたからな」

「みんな仲良く貧乏籤(びんぼうくじ)か? けど、カラニガンの町としては、没落って程でもねぇんだよな?」

「あぁ。だから一層、『シェイカー』とやらの狙いがはっきりしない。真にカラニガンの町を狙ったものかどうか」



 ――クロウの狙いはカラニガンではなく、どちらかと言えばテオドラムへの嫌がらせである。ただ、二人がその結論に至らなかったのはなぜかと言うと、



「しっかしなぁ……そんじゃテオドラムが狙いなのかってぇと……」

「あぁ、サガンからウォルトラムを結ぶ街道は、(むし)ろ活況を呈している。そのせいで、テオドラムの交易量そのものは減っていない訳だ」



 ――と、()(よう)な訳で二人は首を(かし)げているのであった。ちなみにこの反応は二人に限った事ではなく、世人の一般的な反応であったりする。



()いて何かを挙げるとすると……路面の整備ぐらいじゃねぇか?」

「路面の整備? 何だそれは?」

「あぁ、いやな。カラニガンの商人が軒並み手を引いたもんで、山径(やまみち)の整備が(おろそ)かになるんじゃねぇかって話があったのよ。ま、一人二人の旅人が歩いて越える分にゃ問題無ぇんだろうけどよ」

「補給や進軍の経路としての運用か……。しかし、あそこの道は元々狭くなかったか?」

「あぁ、大軍を通せるような道じゃねぇ。少人数で奇襲を仕掛けようってんなら、多少荒れてても問題は無ぇしな」

「とすると、これも没か……」

「結局、サガンの現況ってところに行き着く訳だ」



 そのサガンの町の盛況ぶりだが、単にカラニガンルートを利用していた商人たちの乗り換え……と言うだけでは説明の付かない部分があった。明らかにアバンの廃村を――正確に言えばそこでのドロップ品を――狙って訪れた者が多いと見える。



「――つーかな、カラニガンのルートが潰れた事で、(くち)(うるさ)内儀(かみ)さん連中の小言を()ね返す恰好(かっこう)の口実ができたってんで、いそいそと運試しに来るやつらが多いらしいぜ」



 アバンの廃村での運試しに惹かれるものはあったものの、態々(わざわざ)遠廻りまでしての博奕(ばくち)など許してもらえなかった亭主族が、カラニガンのルートが使えなくなったという大義名分の(もと)に、いそいそと運試しに通っているらしい。



「ま、噂だけどよ」

「また……相変わらず妙な話を訊き込んでくるな」

()きゃあがれ。そう言うそっちはどうなんだよ」

「あぁ、少しばかり護衛連中と話してみたんだが……どうも、テオドラムはサガンの活況に対して、微妙な(いら)()ちを抱え込んでいるんじゃないかという話が出たな」

「へぇ? ……そりゃまた、どういうこった?」



 地図を見れば一目(いちもく)(りょう)(ぜん)であるが、サガンの町はモルヴァニアにもほど近い位置を占めている。すなわち、サガンの町が活況を呈するという事は、モルヴァニアを訪れる商人も増えるという事なのだ。モルヴァニアを仮想敵国とするテオドラムにとっては、微妙に(いら)()たしい状況である。


挿絵(By みてみん)


 しかも更にややこしい事に、サガンの町に(たい)()すべく整備されたウォルトラムの兵力は、このところ他の任務のために抽出されて払底(ふってい)が続いていた。何の任務かと言えば、シュレクとフォルカの監視である。


 言うまでも無く、シュレクには「怨毒の廃坑」という物騒なダンジョンが出現しており、そこに在った村は今や――テオドラム王国上層部の理解するところでは――ダンジョンの支配下にある。(あまつさ)えそのダンジョンを監視するという大義名分の(もと)に、モルヴァニアが国境付近に兵力を駐屯させるという挙に出た。勢いテオドラムとしても、それらに対する備えは必要になる。

 そのためにウォルトラムとニコーラムから兵力が抽出されたのであるが、ここへ来て新たにフォルカの監視という任務までが追加された。

 フォルカことトーレンハイメル城館跡地は、古くから怨霊の巣窟として知られた場所であったが、テオドラムがここに警戒の念を抱くようになったのはごく最近、解り易く言えば、ダンジョンの活動が活溌化してからの事である。このところテオドラムを取り巻くようにポコポコとダンジョンが湧き出している現況に(かんが)みれば、新たなダンジョンが発生するかもしれない場所を(あらかじ)め警戒しておくというのは、これは解らない話ではない。ただ間の悪い事に、そのフォルカがあるのはウォルトラムから北東に少し離れた郊外であり、そのために更にウォルトラムの兵力が抽出される運びとなったのである。


 結果として、人の出入りが盛んになっているサガンの監視任務は手薄とならざるを得ず、テオドラム上層部が苦り切った顔になっているという次第なのであった。

本日21時頃に「死霊術師」シリーズの新作「声無きものの訴え」を投稿します。宜しければご笑覧下さい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ