第二百二十五章 アバン探訪 3.サガンでの幕間劇(その1)【地図あり】
さて、万事の黒幕たるクロウが想定外の事態に悩んでいる頃、当の舞台であるアバンの廃村にほど近いサガンの町でも、今後の方針に悩む者がいた。イラストリアの貧乏籤担当、お馴染みダールとクルシャンクの迷コンビである。
「〝アバンの廃村を探って来い〟……つってもよ、一体全体何を探りゃいいんだ?」
「さぁな。……多分だが、お偉方にも何を探ればいいのか、判っていないんじゃないのか?」
「けっ、面倒は全部こちとらに押し付けようって肚かよ」
例によって例の如く憤懣をぶちまけそうなクルシャンクであったが、
「いい加減にしろクルシャンク。同じ被害者の俺に文句を言っても始まらんだろう」
「……おぉ……そうだな。……悪かった」
同僚に当たり散らすのはお門違いだと理解はしたようだが、相変わらず納得できない様子のクルシャンク。翻ってダールの方はと言えば、少なくとも表面的には不満を漏らしていない。やはり自分のような冒険者上がりとは違うのか……と、心の隅で――少し僻みながらも――感心していたところ、
「その憤懣は調査にぶっつけろ。……情報収集のためには然るべき場所へ足を運んで、然るべき行動を採る必要があるだろうが」
酒杯を傾けるような手付きのダールを見て、全てを納得するクルシャンク。
「……当然、必要経費は上が持つんだよな♪」
「当然だ。何が何でも認めさせる」
「合点だ♪」
――とばかりに、情報収集に勤しむ二人なのであった。
・・・・・・・・
さて、数日間に亘る熱心かつ精力的な訊き込みの結果得られた知見を、宿の一室で付き合わせていたダールとクルシャンクであったが……二人して浮かない顔を禁じえなかった。
訊き込みの成果それ自体はあったのだが、その内容が指し示すところがどうにも解りかねるのである。
「……態々盗賊と迷い家を、二つ並べて調べて来いって言ったからには……」
「両者の間に何らかの関連性がある……少なくとも、上の方はそう考えているという事だろうが……」
「けどよ、それらしい話は引っ掛かってこなかったぜ?」
片や山中のダンジョン跡地に居座った謎の盗賊――自ら標榜するところに拠れば、〝帝国主義者の抑圧に苦しむ同胞を解放せんと立ち上がった、世界征服を企む悪の秘密結社(笑)〟――であり、片や気紛れに財宝を吐き出す〝迷い家〟である。共通点など出て来よう筈が無いではないか。
強いて挙げれば、どちらもテオドラムとの通商路に存在しているという事だろうが……これは単なる偶然だろう。
「あぁ。確かにそういう意味では、めぼしい関連性は出て来なかったな。だが、それぞれがもたらした結果の方を見ると、関連性が無いとも言えないだろう?」
「……流通への影響か……確かにな」
地形的な制約もあって、テオドラムとヴォルダバンを結ぶ回廊は三つだけ。その中で最大の規模を誇っているのは、ヴォルダバンの商都イルズとテオドラムの商都ガベルを結ぶもので、両国間の通商はほぼこのルートで行なわれている。ただ、その位置がヴォルダバンの北西部に偏っている事もあって、北東部に位置するサガンからアバンの廃村を経由してウォルトラムに至るルートも、そこそこの流通を担っている。
カラニガンのルートはその両者の中間に位置する訳だが、細い山径を通らざるを得ない事もあって、そこでの流通量は必ずしも大きなものではなかった。
しかしそうは言っても、カラニガンの位置にメリットを見出していた商人たちもそれなりにいたため、そういった者たちはカラニガンのルートを選んでいたのである。
ところが……なぜかそのルートの脇にでんと居座った「シェイカー」のせいで、テオドラムとの通商拠点としてのカラニガンの価値は一気に低下する事になった。そしてその分を埋め合わせるかのように、最寄りの位置に〝迷い家〟を擁するサガンの町が活況を呈する結果となったのであった。




