第二百二十五章 アバン探訪 2.不本意な辻褄(その2)
『……魔石とか素材とかは駄目なのよね?』
『普通のダンジョンなら寧ろ当たり前のドロップ品なんだろうがな。「間の幻郷」は一応ダンジョンではないという事になっているから、通常のダンジョンのドロップ品を落とすのは拙い。おまけに今は……』
『あぁ……そう言えば、マナステラに開く予定のダンジョンがあったわね……』
『そうだ。そっちのドロップ品とも被らせる訳にはいかんから、選択の幅は益々狭くなる』
困った事だと長嘆息するクロウに、眷属たちも溜め息を合わせる事ぐらいしかできない。嘗てこのような厄介な状況に巻き込まれたダンジョンマスターがいたであろうか(反語)。
『ますたぁの国のぉ、「迷い家」っていぅのだとぉ、どんなものがぁ、ドロップするんですかぁ?』
『「迷い家」のドロップ品か?』
ライの問いに寸刻虚を衝かれた様子のクロウであったが、そこはラノベ作家の端くれたる黒烏先生である。「遠野物語」を読んだ時の記憶を探るが、肝心の迷い家の話は多くなかった――確か二話くらい――気がする。そこで昔話の記憶から、似たような「宝物」が出て来る話を拾い出すと……
『……そうだな。「迷い家」以外の話もあるが……不思議な力のある道具――っていうのが多かったような気がするな』
米が減らない米櫃とか、小判を吹き出す石臼とか、中の酒が尽きない瓢箪とか……枯れ木に花を咲かせる灰……はちょっと違うか?
『運気の上がる壺とかですか?』
『……それも違うような気がするが……』
『つまり……魔道具という……事で……しょうか……?』
『魔道具?』
あれらは「魔道具」の範疇に入るのだろうか? 少し違うような気もするが……
(……潮の干満を操る宝珠とかは魔道具っぽいかもしれんが……あれは「迷い家」の話じゃないしなぁ。……日本じゃないが魔女の箒とかだと、魔道具と言えない事も無いか?)
――などと、斜め方向に考え込むクロウであったが、
『マスター、魔道具なら、マスターが作っちゃえばいいんじゃないですかぁ?』
キーンの声がその思索を破った。
『いやキーン、俺は魔道具なんて作った事が無いぞ。……無い……よな?』
色々とやらかしているのを自覚しているだけに、クロウも己が過去に自信が持てなくなったらしい。珍しく不安な様子で眷属たちに問いかけるが、問われた側も難しい表情を隠せない。透明ボールや馬車などは魔道具のような気もするが、あれらはクロウのダンジョンマジックで生み出された、歴としたダンジョンである。「ダンジョン」の定義を危うくしかねない代物であるには違いないが、「魔道具」の範疇に入れるのは少しおかしい気もする。
他にクロウが作ったものと言えば……魔石は論外として脇へ置いといて……ワイバーンの革を纏めて作った縫い目の無い防刃ジャケットとか、同じくワイバーンの爪を集成して造ったナイフとか、ドラゴンの人工骨とか……は、既にノンヒュームたちにお披露目しているものもあるし、拙いだろう。
ダンジョン防衛用に開発した重砲や機関砲は、抑ドロップさせられるような代物ではない。あとは……
『あ……自動小銃とか『『却下じゃ[よ]!!』』』
クロウ渾身の試作品も、爺さまとシャノアに即行で却下される。
『……魔道具は駄目じゃな。こやつに作らせると碌なものは出て来ん』
『この世を混乱に導く未来しか見えないわね……』
トラブルメイカー扱いされたクロウは憤然たる面持ちだが、それでも反論の声を上げないところをみると、クロウ本人にも自覚があるらしい。
だがしかし、そうなると残されたドロップ品の調達先は――
『……「船喰み島」から回収した海賊のお宝か、「赤い崖」から得られそうな発掘品……ぐらいしか無いが……?』
『あとは、シャルドの空き家で見つけた盗掘品ぐらいでございましょうかな』
『……どれもこれも、下手に流すと騒ぎになりそうなものばかりだな』
『勝手に流すとハンスさんが嘆きそうな気もしますよね……』




